日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 803
会議情報

地域公共交通政策の転換期におけるデマンド型交通事業の展開
広島県北広島町と安芸太田町の事例
*田中 健作
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに 本報告では,現代日本の中山間地域における公共交通の存立構造を解明する手掛かりとして,地域公共交通政策の転換期におけるデマンド型交通(以下,DRT)事業の展開を考察した.研究対象地域には,人口規模や都市的機能,合併パターンを考慮し,広島県北広島町と安芸太田町を選定した. 2.地域公共交通政策の転換 1990年代半ば以降,地域公共交通政策は転換期に入ったとみられる.1995年に第3種バス路線への国庫補助が廃止された.2001年の地方バス路線国庫補助制度の改正では,国の補助は広域的な幹線路線のみに限定されるようになり,それ以外の域内交通等の維持は各県および市町村の対応に委ねられた.また,2002年の道路運送法が改正による規制緩和の結果,中山間地域における広域路線バスの撤退が生じ,地域的な交通対策が要請された.他方,市町村合併促進政策に関連する交通再編メニュー(補助金)も用意された.  さらにここ数年,都道府県単位での財政負担を抑制するために,各市町村に交通再編を促す各種補助制度が整備されている.例えば広島県や島根県では,各市町村に対し,中山間地域対策の一環としてDRTの導入に向けた実証運行等の補助金を設定した.DRTは従来の路線バスに比べて効率性と柔軟性が高いため,中山間地域の公共交通事業において重視されるようになった.  このように,現在の地域公共交通政策においては,県と市町村による公共交通の維持が重要となっている.この中で,地域住民のニーズ充足の対応として,DRTの導入が推進されるようになった. 3.デマンド型交通事業の拡大―広島県の動向―  ここでは,広島県を事例にDRT事業の拡大状況を概観する.広島県では,2003年に旧大和町(現三原市)で初導入されて以降,2008年8月までに中山間地域沿線8市町に拡大した.特に,市町村合併後に導入した自治体が多い.運賃は,各自治体によって異なり,200~500円となっている. 以下では,対象2地域におけるDRTの地域的展開について考察していく。 4.デマンド型交通事業の地域的展開―広島県北広島町と安芸太田町の事例― 2005年現在,広島県北広島町は人口20,857人,高齢化率33.2%,財政力指数0.31である.一方,安芸太田町は人口8,238人,高齢化率42.6%,財政力指数0.23である. 両町は,町村合併と財政再建に伴い,主要施設や中心集落間をつなぐ幹線部分にはバス路線を,小集落沿線の支線部分にはDRTを配置する交通体系を計画し,公共交通の広域的平準化と交通結節部分の強化を進めてきた.両町は公共交通の需給バランスをより意識するようになり,財政負担はともに縮小した. しかし,DRT事業の地域的展開は両町で異なった展開をみせている.安芸太田町の場合,町と個々の町内交通事業者との間には,運行案策定・欠損補填と運行業務という,従来的な事業維持関係が結ばれている.一方,北広島町のDRTは,町と組合化した交通事業者との間にある事業関係によって維持されているが,それに加えて,交通事業者と町内の商業施設や環境NPO 等との間に,業務提携等を媒介にしたネットワークも形成されている.ネットワーク化で中心となったのは,地域振興に関心が高く,地域内の様々な組織と関係を持つ1事業者の代表者であった.地域内にネットワークが形成されたことで,北広島町におけるDRTの機能は複合化し,それを通じた様々な相乗効果が生み出されていた. このように,DRTは地域公共交通の再編成を機に導入が進み,自治体と事業者の間にある従来的な関係がDRT維持の基本的な枠組みとなっている.しかしながら,DRT事業の展開のうち,機能複合化の展開には地域的な差異が生じていた. 5.おわりに DRTは,政策的な背景から各地で広がりを見せている.この中で,両町ともに町と交通事業者によってDRT事業が維持されているが,北広島町の場合は,交通事業者と地域内の複数組織との間にネットワークが形成されている点に特徴があった.それは,北広島町におけるDRT機能の複合化と,地域社会内のプラスの循環とをもたらす鍵になっていたものと考えられる.

著者関連情報
© 2009 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top