抄録
愛媛県肱川最上流に位置する宇和盆地で掘削されたコアの深度約70m以浅の過去約50万年間の堆積層を対象として、粒度分析、色相計測、有機炭素・全窒素分析、帯磁率測定を行い、この間の環境変化を復元した。
コアにおいてC/N比が10以下の層準(L*>30、TOC<1%の明灰色シルト)は、湖底堆積物と考えられ、MIS 3, 5, 7.5, 9, 11,13の間氷期に出現した。C/N比が20を超える層準(L*<20、TOC≧3%の泥炭質シルト)は、湿地堆積物と考えられ、MIS 2, 4, 6, 8, 10,12,14の氷期に出現した。以上は、気候の氷期-間氷期変動に伴い、盆地床は湖と湿地を繰り返してきたことを強く示唆する。とくに、氷期の海面低下に伴う日本海の閉塞や瀬戸内海~豊後水道の陸化が、当該地域に顕著な乾燥化をもたらした可能性が想定される。他方、各指標値の50万年間の定向変化は、盆地の埋積が進むにつれて、湖の出現頻度や期間・水深は減少し、その一方で平坦な盆地床が拡大し、斜面から盆地中央への粗粒物質の到達頻度や規模が減少してきたことを示す。