日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1008
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都市域における生気候学的体感温熱環境の評価(1)
*松本 太浜田 崇田中 博春一ノ瀬 俊明
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抄録
1. はじめに 都市空間では,地表面の人工物化,風通しの悪さ,人工廃熱の増加,緑の喪失などにより高温化(ヒートアイランド化)しており,快適性が損なわれている.また,熱中症患者も増加している.このような都市では,屋上緑化や保水性舗装などの技術による熱環境改善対策だけでなく,予防や適応の策も考える必要がある. 地方自治体が都市の熱環境を対象とした施策を行う際には,視覚的な情報(地図)が重要となる.たとえば,ドイツでは,ローカルな気候環境を都市計画や大気汚染対策に活用するため,クリマアトラスとよばれる気候環境主題図の作成が行われている(一ノ瀬,1999).日本でも,これを応用し,クリマアトラスの一つとして体感温熱指標の分布図を作成すれば,都市における熱環境の予防や適応策を検討するうえで重要な情報となりうる. 国内では,体感温熱指標の研究は建築や生気象などの分野を中心になされ,さまざまな指標(WBGT,SET*,PMVなど)の観測が都市で行われてきた.しかし,これらの研究のほとんどが定点観測によって行われているため,分布図は作成されていない.一方,面的に把握するためには,多数の定点観測データが必要であり多額の予算と労力を要する. そこで,本研究では日本の都市域における体感温熱環境の評価を最終目標とし,まずは体感温熱指標の分布図を作成することとした.その第一段階として,気温,湿度,風,放射などの気象要素の移動観測を行い,各気象要素の測定の評価と分布図の作成を試みた.今回は,2008年7月に茨城県常総市で行った移動観測の予備観測と,8月に長野県長野市で行った移動観測の結果について報告する. 2.観測方法 常総市では気温,湿度,風,放射の移動観測とそれらの定点観測との比較を行った.観測は条件を単純化するため,平坦で土地利用が一様(水田)な場所を選んだ.観測日は2008年7月31日の午後である.移動観測は,サーミスター温度計(乾球温度・湿球温度),超音波風向風速計,放射収支計(下向き短波・長波放射量),赤外放射温度計(路面温度),GPSを自動車に搭載し,1秒毎に記録した.定点観測地点においても同様の気象要素を1秒毎に測定した.定点と移動観測で得られたデータを比較した. 長野市での移動観測は,常総市で行った移動観測と同じ方法によった.観測日は2008年8月13,14日の日中に行なった.定点観測は,都市キャニオン内(信州大学教育学部構内)と都市のバックグラウンド(同大学の校舎屋上)において同様の測定を行った.また,これらに加えて,グローブ温度の測定とキャニオンでは熱画像の取得も行った. 3. 結果  まず,常総市の予備観測で行った定点と移動観測の結果を比較した.定点通過時において,日射量は1W/m2程度,大気放射量は4W/m2程度の差がみられた.一方,自動車で移動している間の日射量を比較すると(図1),時系列の変化は類似しているものの,移動観測ではときどきスパイク状の日射量の低下や日射量の立ち上がりが定点に比べ遅いことなど違いもみられた.差の平均は約4.1W/m2だった. また,大気放射量は定点と移動とで全体の傾向は類似していたが,細かい変動は必ずしも一致していなかった.  放射量の測定はセンサーの時定数が10秒あることがこのような違いをもたらすものと考えられる.したがって,都市のような複雑な放射環境場における測定に際してはその空間代表性を十分吟味する必要がある.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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