抄録
はじめに
日本の多くの河川には水害防備林としてタケが植栽されており,洪水時に土砂を捕捉し,洪水被害を低減しているという報告(長尾 2004)もある.ところが近年,西日本を中心にタケ類テングス病の蔓延が報告されており(橋本ほか 2008),河川沿いの竹林においてもその発症がみられている.タケ類テングス病は,麦角菌科の一種Aciculosporium take Miyakeが枝先に感染することにより葉の矮小化を引き起こし,最終的には枯死をさせる病気であり,胞子が直接の接触や水滴等により運搬され感染が広がるとされている.テングス病が発症すると竹稈の強度は,弱くなることから,洪水時の土砂捕捉効果の低下や,流れの妨げとなる竹稈の流下をもたらし,洪水被害を増大する恐れもある.そこで,京都府木津川下流を例に河川沿いの竹林の分布とそれらのテングス病の発症状況を報告したい.
調査地と方法
京都府木津川下流の木津川大橋から山城大橋までの約9 kmの区間の両岸を対象とした.まず,2003年国土地理院撮影の白黒空中写真の判読をより竹林分布図を作成した.それに基づき,2008年11月から2009年1月にかけて現地調査をおこない,目視により,竹林の構成種,竹稈の密度(5段階),タケ類テングス病の発症状況(7段階)を判定した.
結果と考察
調査範囲において竹林は,高水敷上に位置しており,木津川,宇治川,桂川の三川合流地点から8.0kmより上流側に多く分布していた.構成種ごとに見ると,全体に広く分布していたマダケが30.6haと大半を占め,他にハチク(2.1ha),モウソウチク(1.7 ha),3種の混生(7.0 ha)と1 haに満たないクロチク,シホウチクの竹林が存在していた.これらの面積は堤外地の8.6%を占めていた.竹稈の密度は,62%がレベル3(密生し枯死稈が全体の1割を超える)であった.これは,モウソウチクで10,000本/ha程度,マダケ,ハチクで40,000本/ha程度の密度であるとみられ,高い土砂捕捉機能や水流の減衰効果が期待される一方で,テングス病の急速な蔓延が生じやすい環境であった.実際,クロチク,シホウチク,モウソウチクの林では,テングス病の発症は認められなかったものの,多くの発症が報告されているマダケとハチクでは8割を超える林で発症が確認できた.モウソウチクとマダケまたはハチクの混生林でも83%で発症が確認できたものの,モウソウチクでの発症は認められなかった.これは,モウソウチクよりもマダケでテングス発症率が高い(橋本ほか 2008)という報告と調和していた.一方で,テングス病による枯死稈が25%以上を占めていたのはマダケ,ハチクとも1ヶ所のみで,稈の枯死は緩慢であった.しかし,一部の竹林では,局所的に枯死稈が集中する箇所もあった.
このように木津川下流域の高水敷上には,マダケからなる竹林が広く分布しており,その多くでテングス病が発症していた.竹林の稈密度は極めて密であり,テングス病の伝染が急速に進みやすい環境になっていた.現状では,テングス病による枯死や倒伏は進んでいなかったものの,今後急速に枯死や倒伏稈が発生することも推測できる.
文献
長尾朋子 2004.久慈川中流域における水害防備林の立地と機能.地理学評論 77: 183-194.
橋本佳延・服部 保・岩切康二・田村和也・黒田有寿茂・澤田佳宏 2008.タケ類天狗巣病による西日本の竹林の衰退.保全生態学研究 13: 151-160