日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 521
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グルノーブル都市圏における公共交通ネットワークの整備と中心地の土地利用
*山下 博樹伊藤 悟
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抄録

1.はじめに  モータリゼーションの進展によって破壊された旧来型の都市構造の再生や公共交通の復権は、わが国のみならず欧米諸国でも取り組まれている都市の重要な課題となっている。報告者らは、バンクーバー、メルボルン、ノリッジ、佐倉市ユーカリが丘など各地の先進的な取り組みについて報告してきた。
 他方で報告者らが関心を持つ「Livable City(住みよい都市)」の概念は、多様な価値基準によって評価されるため、文化的な背景の異なる都市についても比較・検討する必要がある。そこで本研究ではこれまで主に報告してきた英国系(英国内および英国の旧植民地)以外の都市としてフランスのグルノーブル都市圏を対象に、トラムの再生を中心とした公共交通網の再構築とそれと結びつく中心地の土地利用や景観について調査・分析を行い、そのリバビリティを検討した。

2.グルノーブル都市圏の概要
グルノーブルは広大なフランス国土の南東部、パリからは南南東約400kmに位置する。グルノーブルはイゼール県の県庁所在地であると同時に、ローヌ=アルプ広域圏の首府でもある。イタリア、スイスの国境からは100km程度と程近い。グルノーブルの都市人口は約15.8万人(2005年)であるが、都市圏人口は約56万人を数える。
3世紀にはすでに小さな街が形成されていたというグルノーブルの中心部には古くからの広場や市場のほか、多くの商店やデパート、カフェ、レストランなどが建ち並んでいる。市街地の北に位置するバスティーユの丘から一望する街は、一面の赤茶色の屋根をもつ中心部の街並みと、アパートなどの高層建築物が多い郊外の街並みのコントラストが明瞭で、グルノーブルの市街地の発達の様子を伺い知ることが出来る。

3.公共交通ネットワークの整備と中心地の土地利用
かつてグルノーブルでは1894年から1952年にかけてトラムが利用されていたが、モータリゼーションの進展などにより一時廃止されていた。ヨーロッパでは地球環境問題への関心から、近年多くの都市でLRTの整備が盛んに進められている。現在のグルノーブルのトラムも1987年に再整備が始まり、2008年現在では4路線65駅のネットワークが形成され、その総延長は33.8kmである。トラムの路線網はさらに今後も郊外への拡張計画がある。トラム沿線の400m圏には沿線の26コミューンの居住人口39.9万人の44%、就業人口の50%が集積している。さらに主要なトラム駅はバスターミナルとも接続しており、グルノーブル市内を中心に利便性の高い公共交通網が整備されている。2007年の1日当たりの乗降客数はトラムが約18.0万人、バスは13.1万人である。また郊外のトラム駅13ヵ所にはパーク&ライドのための2,034台分の駐車スペースが整備されている。2007年のパーク&ライドの延べ利用台数は22.8万台で、2006年比では34.5%増加しており、マイカー利用の低減化が図られている。
   中心部の土地利用は、前述したように歴史ある中層建築物からなる街並みに、多くの商業施設や飲食店と住居の混合利用が卓越している。他方、郊外でも住居は中高層建築物が多く見られ、比較的高密度の人口密度地域が形成されている。またトラムなどの公共交通のターミナルには商店街やショッピングセンターなどの商業集積がみられるほか、企業や公的機関のオフィスなども立地しており、利便性の高い郊外核の存在が確認された。こうした土地利用の動向から、郊外を含む市街地全体で高密度な土地利用が行われており、また沿線の26コミューン全体の居住人口密度は1,299人/㎢と相対的に高い。

4.グルノーブル都市圏のリバビリティ-むすびに代えて-
 本報告では公共交通ネットワークの整備状況とそれに関連した中心地の土地利用などからフランスの地方都市のリバビリティを検討した。その結果、グルノーブルのような比較的規模の小さい都市圏においても公共交通ネットワークの維持・拡大が可能であり、持続可能で住みよい都市空間の形成を実現している。その背景には中心部をはじめとした高密度の居住人口の存在のほか、県と沿線のコミューンによる公共交通管理会社SMTCの設立、その運営会社Semitagへのパートナー企業の支援があることなどが分かった。また、9人以上の労働者を雇用する企業に課される交通税の仕組みなど、地方都市圏などで公共交通網の衰退の深刻な日本がこうした先進地域の事例から学ぶべき事柄は極めて多い。

 本研究を行うにあたり、鳥取大学の門田眞知子教授、グルノーブル第3大学のPhilippe WALTER教授には多くの便宜を図って頂いた。ここに厚く御礼申し上げる。また平成20年度科学研究費補助金基盤研究(C)「我が国におけるリバブル・シティ形成のための市街地整備に関する地理学的研究」(研究代表者 山下博樹)の一部を使用した。

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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