日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P806
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糸静線活断層帯中南部,富士見町御射山神戸における,横ずれ変位に伴ったテクトニックバルジの形成・進化
*杉戸 信彦澤 祥谷口 薫佐藤 善輝中村 優太糸静線活断層帯重点的調査観測変動地形グループ *
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抄録
 糸静線活断層帯中南部,茅野市から富士見町にかけては,左横ずれ変位が卓越しており,テクトニックバルジが多数発達する(例えば,澤,1985).こうしたバルジ群の形成・進化過程を解明するため,富士見町御射山神戸に分布する相対的に大規模なテクトニックバルジに注目し,LiDAR計測,ボーリング掘削調査,およびピット掘削調査を実施してきた(例えば,杉戸ほか,2009).本発表では,2009年度に実施したLiDAR計測データ詳細解析やボーリング調査の結果も交え,このバルジの形成・進化過程を詳しく検討する(以下,活断層線の名称や調査位置等は図1参照).
 澤(1985)および今回の現地調査等に基づくと,調査対象とした長さ約2 km,幅約700~800 mに及ぶこのバルジは,御岳第1テフラ(On-Pm1)(約100 ka;例えば,町田・新井,2003)降下前後~御岳三岳テフラ(On-Mt)(約57 ka;例えば,竹本ほか,1987)降下前後に赤石山脈起源の砂礫層・砂層が堆積して形成された地形面(M1面~M2a面)が変形して形成されたものである.表面は風成層に覆われる.Loc.1では風成層中にOn-Pm1と判断されるテフラ層が認められる(澤,私信:澤(1985)作成時の現地調査により確認).このバルジは,北東縁を比高約60 m以下の撓曲崖,南西縁を比高約20 m以下の低断層崖によってそれぞれ限られる(活断層線i・ivに対応する)(例えば,澤,1985).バルジ中央付近にはバルジの長軸とほぼ同じ走向を示す活断層線が複数条認定され(活断層線ii・iii等),河川や開析谷の左横ずれも認定される(例えば,澤ほか,1998).
 バルジの北西延長部に発達するL1b面に注目すると,バルジ北東縁・南西縁の変動崖の延長部には変位が認められない一方(活断層線i・iv),バルジ中央の活断層線はL1b面まで連続して追跡され,バルジ北西端(段丘崖)を明瞭に左横ずれさせている(活断層線ii・iii)(例えば,澤ほか,1998).したがって,新期の断層運動はバルジ両縁ではあまり発生しておらず,主にバルジ中央付近の活断層線で生じている可能性が考えられる.
 LiDAR計測結果をみると,活断層線iiiはバルジ北西端を40~50 m左横ずれさせている.段丘崖下に発達するL1b面の年代は約1万年前と推定されるため,平均左横ずれ変位速度は約4.0~5.0 mm/yrと求められる.同じく,活断層線iiはバルジ北西端を30~40 m左横ずれさせているため,約3.0~4.0 mm/yrの平均左横ずれ変位速度が得られ,合算すると約7~9 mm/yrとなる.なお,L1b面の年代は,約0.7~0.8 km北西方の茅野市金沢におけるトレンチ掘削調査で得られた4b層・4c層・4bc層(断層の両側にみられる最も上位の堆積物)の年代(糸静線活断層系発掘調査研究グループ,1988)と整合的である.
 活断層線iiiの出現時期を解明するため,群列ボーリング調査を実施した(Loc.2).その結果,約1~1.5万年前の地層以深に上下変位の累積性はあまりみられず,主に約1~1.5万年前以降に上下変位が起こったことがわかった.対象とした活断層は約1~1.5万年前以降に活動を活発化させたと考えることができる.実際,ピットを掘削したところ(Loc.2のすぐ北西),ほぼ鉛直~高角度南西傾斜の複数の断層面を境として,南西側の地層が階段状に落ち込む様子が観察され,ごく最近の古地震イベント(1000±40 yr BP以前1870±40 yr BP以降)が解読された.左横ずれ変位を示す引きずり構造もピット底面の断層部において観察され,また,LiDAR計測に基づいて詳細地形図を作成したところ,バルジ中央の活断層線が概ね数10~数100 mスケールで右雁行配列する様子が描き出された.
 このような活発化は,以前はバルジの両縁に出現していた地表変位が,変位の繰り返しによって局在化しバルジ中央に出現するようになったため,と考えると合理的に説明される.この活断層線を横切るLoc.2付近の開析谷は40~50 m左屈曲しており,2.7~5.0 mm/yrの平均左横ずれ変位速度が得られる.この値はバルジ北西端で得られた値と整合的である.
 このように,今回の調査によって,横ずれ変位に伴ったテクトニックバルジの形成・進化(地表変位の場や変形パターンとその変遷)の様子が詳細に解き明かされた.一方,他のバルジにおいてはその(両)縁を限る活断層線が現在も活動的であることが多い.複数のバルジにおける現在の活動を比較検討することで,バルジ発達の時空的変遷をさらに議論できる可能性がある.
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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