日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 514
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長石のOSL強度から求められる露光率を用いた砂粒子の運搬過程の解明、新潟県海岸部を例として
*林崎 涼白井 正明
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抄録
はじめに
 海岸での砂の運搬過程についての研究は,従来は着色砂や放射性物質をトレーサーとして,また砂に含まれる鉱物や粒度などを用いて行われてきた.他に,地形変化や波の観測などからも研究が行われている.本研究では新たな指標として,砂に含まれている長石の光ルミネッセンス(OSL)強度を利用した露光率(白井ほか,2008)という概念を用いて,新潟県の海岸における砂の運搬過程を明らかにしていく.

露光率とは
 長石や石英は地中など光から遮断された状態で,自然界の放射線を浴びることによって,鉱物内にエネルギーを蓄える.鉱物は露光することによってOSLを生じ,蓄えられたエネルギーは発光により消費される.海岸の砂中に存在する長石や石英は,長距離運搬されるほど露光する機会が多くなり,エネルギーを蓄えていない(露光した)粒子が多くなると考えられる.従って,露光している粒子の割合を表す露光率によって,砂粒子の運搬過程を求めることが出来ると考えられる.

調査・分析
 新潟市の砂浜の汀線付近で2009年9月に試料を採取した.試料は深さ5cm砂を掘り込み,塩ビパイプを差し込む事により採取し,暗室内でオレンジ光源下(波長600±50nm)において処理を行う.粒径300~500μmの長石粒子を選別し,測定用のステンレスディスクに1個ずつ接着した.OSL強度の測定は,デンマークRisø研究所製TL/OSL-DA-20自動測定装置を用いた.長石のOSL強度を測定し,その粒子が採取時に露光・未露光であったかを判別する.1ヶ所のサンプルに含まれる露光した長石の割合を露光率と定義する(白井ほか,2008).

結果・考察
 阿賀野川(Loc.2,3)と大河津分水路(Loc.10,11)の河口の試料では,露光率の傾向に違いがある.阿賀野川河口では河道内と河口砂州の海側での露光率に大きな違いは見られないが,大河津分水路河口では海側の露光率が20%ほど小さい.増水時には信濃川の水量の大部分は大河津分水路に流されるため,大河津分水路河口部には増水時の砂が堆積している.増水時に運搬される砂は未露光の粒子を多く取り込んでいると考えられている(白井ほか,2008).大河津分水路河口の海岸部(Loc.10)で露光率が低くなっているのは,河口部での最近の侵食によって洪水堆積物が混入しているためであると考えられる.このことは,調査時に平成16年7月新潟・福島豪雨の産物と思われる洪水堆積物が浜崖に露出していたことからも支持される.
 広域的な露光率の変化は,北へLoc.7まで,今回調査した範囲では南へLoc.13まで露光率は上昇していく傾向を示している.Loc.7からLoc.6にかけて露光率はほぼ同じであるが,やや低下している.本研究の露光率から,大河津分水路から運搬されている砂が砂浜で多く占めるのはLoc.7~Loc.6の間と考えた.先行研究で三野ほか(1963)では,砂の鉱物割合や粒度などから,Loc.6とLoc.7の中間地点付近で南西方向と北東方向の沿岸流の卓越方向が収束すると考察している.本研究の結果は,露光率が砂の運搬過程の新たな指標になることを示している.
 露光率を用いた砂の運搬過程の研究例は,今現在では遠州灘(白井,2008)と,本研究対象地域である新潟海岸部に限られている.今後,研究例を更に増やし,露光率による砂の運搬過程の解明を試みていく.また,露光率は従来の研究では把握しきれていない,海岸侵食によって運ばれた砂が,どこに運搬されていくかを把握する手段となり得ると期待される.海岸侵食が著しい場所を,よりローカルに多数の露光率を出すことによって,海岸で侵食された砂がどこに運搬されているのかを解明していきたい.


謝辞
 本研究は東京大学工学部海岸・沿岸環境研究室所有のデンマークRisø研究所製TL/OSL-DA-20自動測定装置を使用させて頂いた.劉 海江博士には測定の補助を,佐藤愼教授には装置使用の便宜をはかって頂いた.記して深く謝意を表する.

参考文献
白井正明・塚本すみ子・近藤玲介2008.OSL強度より推定する現世河川堆積物中の長石粒子の露光状
 況と運搬―堆積過程.第四紀研究47:377-389.
白井正明2008. 砂粒が発する光が語る,天竜川河口周辺での砂の旅.第3回東京大学の海研究【海と
 人類との新たな接点】概要集:36-39.
三野与吉・町田 貞・荒巻 孚・山内秀夫1963.新潟海岸の海浜堆積物からみた沿岸流の卓越方向につ
 いて.東京教育大学地理学研究報告7: 1-22.
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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