日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0201
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「地理」と防災教育
*熊木 洋太
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抄録
 地理学は現実社会のさまざまな問題の解決に役立つ学問である。特に災害の研究は,地理学が社会に直接貢献できる分野である。このような観点から,日本地理学会災害対応委員会では,2003年の春季学術大会以来,これまで8回の公開シンポジウムを開催してきた。これらのシンポジウムでは,専門研究者の立場からの発表が中心であったが,自然災害を防止したりその被害を軽減させたりするには教育の役割が大きいということがくり返し言われてきた。
 すなわち,自然災害が多発するわが国において,国民の「防災力」を高めるには国民の間に自然災害に関する的確な知識が共有されていることが必要であり,このためには,初等・中等教育の段階から自然災害について学ぶ防災教育が重要であるということである。自然災害は自然現象であると同時に,その地域の社会構造とも密接に関係するので,土地の自然的性質や,土地利用,地域の空間構造などを取り上げ,地域の自然と社会を総合的に扱う「地理」は,災害の学習に最も適した科目・分野であると思われる。2004年12月のスマトラ沖地震津波の際には,プーケット島に滞在中のイギリス人少女が「地理」の時間に習った津波の来襲だと周囲に告げたため,多くの人が助かったと報道された。近年ハザードマップの重要性が指摘されることが多いが,これはまさに災害の地理的表現にほかならない。災害を引き起こす自然現象について学ぶ分野として,高等学校では「地学」もあるが,それを履修する生徒がきわめて少数である現実を考えると,「地理」の果たす役割は大きい。
 日本学術会議は2007年の答申「地球規模の自然災害の増大に対する安全・安心社会の構築」において,学校教育における地理,地学等のカリキュラム内容の見直しを含めて防災基礎教育の充実を図ることを提言している。また同年の地域研究委員会人分・経済地理と地理教育(地理教育を含む)分科会・地域研究委員会人類学分科会の対外報告「現代的課題を切り拓く地理教育」では,地域防災力を高め安心・安全な地域作りに参画できる人材の育成と,そのために必要な自然環境と災害に関する地理教育の内容の充実を提言している。これらを踏まえ,2009年8月に活動を開始した地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会では,12月に下部組織として環境・防災教育小委員会を発足させ,地理教育における防災教育のあり方について検討を始めた。
 初等・中等教育に関しては,学習指導要領の改訂が行われたところであり,新学習指導要領は小学校が2011年度,中学校が2012年度,高等学校が2013年度から完全実施される。地理に関しては全体的に地図の活用が強調されている等の特徴があるが,高等学校「地理A」において,「我が国の自然環境の特色と自然災害とのかかわりについて理解させるとともに,国内にみられる自然災害の事例を取り上げ,地域性を踏まえた対応が大切であることなどについて考察させる」という記述が新たに加わったことが注目される。
 このシンポジウム「『地理』で学ぶ防災」は,以上の状況を踏まえ,日本地理学会の災害対応委員会と地理教育専門委員会によって計画され,日本学術会議との共催で実施される。小学校,中学校,高等学校,大学の各段階での実践例に基づく発表を軸として,地理学・地理教育の立場から学校教育の中での防災教育のありかたや方法を取り上げて検討する。
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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