日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 421
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多良間島の現成サンゴ礁微地形とその変化
*長谷川 均鈴木 倫太郎柳沢 康二
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 琉球列島の島々では、大部分で裾礁タイプのサンゴ礁が形成されているが、これらのサンゴ礁では一般に地形や底質に浜から沖に向かう帯状構造がみられる。これらの帯状構造は大局的に変化することはないが、それらを構成する微地形や構成物の割合は同一のサンゴ礁であっても、時間とともに変化する。その理由は、地形を構成する造礁サンゴが絶えず生・死を繰り返し、地形や堆積物が更新を繰り返すためである。また、生物侵食による堆積物の変化も少なからずあると見積もられている。また近年、白化による造礁サンゴ礁の死滅と復活(部分的ではあるが)、陸域の環境変化に伴う浅海域の生態系変化、台風時の暴浪による砂礫の大規模な移動による礁池の埋積などが各地で観察されている。
 琉球列島では、1960年代以降に撮影された空中写真が多時期にわたって存在するので、サンゴ礁浅海底の造礁サンゴが作るパッチ状地形の変化を抽出できる可能性がある。そこで、数十年間で観察されるサンゴ礁を構成する微地形の変化を、人為的な影響の少ない島で試みることにし、例として多良間島を選択した。
 なお、多良間島の輪郭はほぼ円形(東西に長軸を持つ楕円形)をなし、周囲に波浪を妨げる大きな島がなく、サンゴ礁海域に流入する明瞭な河川も存在しない。このことから、サンゴ礁地形の形成や発達の程度に影響をおよぼす波、風の影響とサンゴ礁地形との関係、生物起源の海浜堆積物や浅海底堆積物の構成や分布などを調査するのにも適した島である。

多良間島の現成サンゴ礁
 多良間島では、約30年前に高橋ほか(1981)が現成サンゴ礁の微地形調査を実施しており、サンゴ礁地形の概要はすでに明らかにされている。ただし、近隣の島々のサンゴ礁地形との比較はなされていないようである。
 今回の調査では、まず1977年と2009年の二時期のカラー空中写真からサンゴ礁の微地形を判読し地形分類図を作成した。次に、多良間島の東・西・南・北に側線を設定し、現成サンゴ礁の断面測量と底質 の記載をおこなうと同時に、礁池内の地形を調査した。
 高橋ほか(1981)の先行研究と今回の調査から、多良間島のサンゴ礁地形は礁原の幅と卓越風向に強い対応がみられること、礁原の高度分布に地殻変動の影響があることは明白である。また、石垣島の東海岸などと比べ、明瞭で幅の広い礁嶺が形成されておらず、礁池底は凹凸に富み前方礁原付近では海岸線に並行した何列もの凹凸のある礁原が形成されている地域がある。
 また、礁池内にみられる造礁サンゴからなると推定される生サンゴの群落は、過去三十数年間で全体としてその面積が減少している。それに伴って、礁池内にみられるサンゴパッチ(造礁サンゴが作る高まりをもった地形)が減少している。さらに、前方礁原の内側には、礁斜面を超えて運搬されたと思われる大量の砂礫が堆積している場所があるなど、速い潮流やダイナミックな海象に対応した地形変化がみられる。なお、礁池にみられる岩盤に占める生サンゴの被覆度は八重山諸島の島々に比べおおむね高く、優れた景観がみられる。
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