日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 504
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空き家の活用による定住政策と農村空間の商品化
商品化する日本の農村空間に関する調査報告13
*作野 広和
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抄録
1.はじめに
 全国の中山間地域では空き家の発生が問題となっている一方で,移住者には住宅が供給されないミスマッチが生じている。これらの問題を解決するために,中山間地域を有する多くの自治体では,空き家の利活用による定住化を図るための政策を展開している。
 このような実態を踏まえ,本報告では中山間地域における空き家居住に対するニーズを踏まえた上で,移住者に対していかなる定住政策が有効に機能するのかについて検討を行う。これにより,所有者と移住希望者の双方が納得する空き家を確保する条件を見いだすことができ,農村空間の商品化という文脈において,空き家が果たす役割について検討する。
 なお,事例地域として,島根県江津市を選定した。

2.中山間地域における空き家の発生と政策的対応
 中山間地域における空き家の利活用については,2005年前後から急速に注目されるようになった。これは,同年前後から日本の総人口が減少に転じたと報道され,これにあわせるように都市住民の中山間地域に対する移住傾向が一層強まったことと関係している。
 一方,中山間地域では以前から定住政策を推進してきたものの,移住者の居住地については定住住宅を建設することが主流であった。2000年代後半から全国の中山間地域で空き家問題が深刻化した結果,各自治体は競って空き家バンクを開設するなど,政策的対応を行ってきた。
 発表者の調べによれば,都道府県レベルで空き家を活用した定住対策を行っているのは42道府県にのぼっている。ただし,実際に空き家居住を希望する場合には,市町村への照会が不可欠である。そのため,居住地域を限定しない空き家居住希望者は市町村に対して個別に照会する必要があり,移住の障壁となっている。

3.都市住民を中心とした空き家に対するニーズ
 ところで,実際に都市住民が中山間地域へ移住を希望しているのかについては,十分に把握されていない。そこで,報告者は都市住民に対しては郵送式のアンケート調査を行い,空き家のニーズと居住のための要件について把握を行った。その結果,都市から中山間地域への居住ニーズについては一定量存在することが改めて明らかになったが,実際に移住するためには,受入れ側の地域が以下のような点を認識しておく必要があることが明らかになった。第1は地域にどのような人材を招き入れたいのか,受入れ側として明確なビジョンを有する必要がある。第2に,受入れ側の「住まい」に関する情報を,都市住民のニーズにあったものにする必要がある。第3に,田舎暮らしにおける就労意欲に対して合致した就業場所や居場所づくりが必要である。第4に,移住希望者に的確な情報を提供するためのワンストップサービス化が必要である。

4.島根県江津市における空き家を活用した定住政策
 報告者の調べによれば,島根県江津市には約1400軒もの空き家が存在しており,そのうち半数程度は利活用が可能と考えられる。だが,実際に移住希望者に提供される空き家はごく少数である。各集落において空き家は概ね放置されており,これらを流動化させるには多くの障壁が存在している。少なくとも,図のように空き家を選別し,空き家の実態に即した対応が必要であると考えられる。
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