日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 709
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東京都における保育所待機児童の発生状況と対策の地域差
*工藤 宏子
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抄録
1.はじめに
 現在の日本では,児童を持つ世帯でも共働きが当たり前となりつつある.児童数が減少しても,保育所需要は増大し,保育所に入所できない児童が発生している.この保育所待機児童問題は,約7割を3歳未満時が占めること,および東京都,神奈川県,埼玉県と大阪府の4都道府県で全体の半数を占め,大都市部に集中していることが特徴として挙げられる.多様化する保育需要に対し,保育サービスの整備には自治体が責任を負っているため,自治体ごとに保育状況が異なっているのが現状である.
 そこで本稿では東京都を対象とし,東京都内における待機児童発生の地域差を明らかにする.また,区市町村の待機児童対策の地域差を,保育施設利用可能な児童を増加させる点に着目して考察する.

2.研究方法
 本研究では,区市町村の行政を対象としたアンケート調査を行った.調査の方法は,保育計画担当に調査用紙を返信用封筒とともに配布し,後日郵便で回収した.全配布数44のうち,回答数は区が16,市が17となり全体で33(75%)であった.区市町村の待機児童解消対策の工程の中から,調査項目として,既存の公立認可保育所の民営化の方針,認可保育所の新規設置の方針,0歳から2歳児の待機児童への対策,3歳から5歳児の待機児童への対策,保育施設利用者に対する保育料補助の項目を設けた.

3.認可保育所設備方針の類型化
 区市町村の認可保育所整備方針は,公立認可保育所の民営化と認可保育所の新規設置の視点から,図に示される4つに類型化された(現状維持型,民間移行型,公立維持-私立増設型,民間移行-私立増設型).現状維持型は,既存の認可保育所の経営をそのまま維持する.民間移行型は,既存施設の民営化を行い,民間経営によってサービス内容の拡大を図り,施設の新規設置を回避する狙いがある.民間維持-私立増設型は,既存の公立認可保育所を保育サービスの核と位置づけ,私立認可保育所の増設により,待機児童に対応する.民間移行-私立増設型は,多くの待機児童を抱える区市が該当し,公立認可保育所の民営化による経費削減で私立,認可保育所の新規設置や利用者への補助制度,民間の認可外保育施設利用補助にあて,待機児童に対応している.

4.結果
 民間施設の参入は23区に多い.都心では定員拡充の主体を民間施設とし,23区縁辺部では,早期に設置できる民間施設と認可保育所の設置を併用して待機児童に対応している.一方,民間施設の参入が少ない郊外では保育需要の多くに行政が応えなければならない現状となっている.行政が保育所待機児童に対する区市町村の対策には,区市町村内の待機児童の発生状況と今後の待機児童の動向の捉え方とともに, 地域への民間施設の参入状況が影響することが解明された.
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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