日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0207
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高等学校地学と防災・減災教育
2つの実践から見えてきたこと
*美澤 綾子
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抄録
1.はじめに
 自然災害を防いだり,被害を最小限にしたりするためには,まずは自然災害の原因となる自然現象を知ることである.そのためには,地学的・地理的な知識の習得は不可欠である.小学校から高等学校までの理科教育の地学領域では,地球システムやメカニズムの解析を重視した教材が取り上げられており,災害の直接の原因となる自然現象を学ぶことができる.そこへ人間への影響,自然の二面性,身を守る手段などを取り入れることができれば,科学的な知識に基づいた防災・減災教育を展開することが可能であると考える.
 これまで,地域の特性に応じた地震・火山学習プログラムを作成し,実践してきた.実践から見えてきたことと,新学習指導要領や地理との関連性などを挙げながら,これからの防災・減災教育について考えたい.

2.高等学校地学での実践
(1)授業から地域防災へ~大須賀町防災講座の開講~(地学_I_A)
 静岡県西部に位置するA高等学校で,平成12年度から平成15 年度までの4年間,地学_I_A(選択科目,2単位)を担当した.地震の単元の取り扱いは10時間程度であったが,生徒たちの関心は高く,学習内容を授業以外にも発展させることができた.特に平成15年度は,大須賀町の協力を得て,生徒とともに大須賀町防災講座(全8回)を開催することができた.そこで,地学の授業の内容とそれを踏まえた地域での活動を紹介する.
(2)ESD教材としての防災教育プログラムの開発と実践(地学_I_)  静岡県東部に位置するB高等学校で,平成17年度から平成19年度までの3年間,地学_I_(選択科目,4単位)を担当した.平成19年度には,従来の高校地学で取り扱われていた地震や火山の学習内容をESDの観点で整理し,自然環境や防災に対する知識や行動力を持った高校生の育成を目指した学習プログラム(35時間)を作成,実践した.作成したプログラムや教材,生徒たちの様子などを報告する.

3.実践から見えてきたこと
 2つの実践を通して,_丸1_科学的な知識と実務的な内容を関連させて学ぶこと,_丸2_地域に想定される災害についての実験・実習を行うこと,_丸3_地域,行政,専門家など様々な主体と連携すること,_丸4_学んだことを学習者自身が発信すること,の4点により学習の効果が上がることがわかった.
 また,火山分野で「日本の火山とその恵み」,「火山と国立公園」「世界遺産」などを取り入れたところ,生徒たちの地震や火山への認識が「怖いもの」から「共存していかなければならないもの」に変化した.災害と恵みという二面性を知ること,そして地震だけでなく,火山,気象と自然災害全般について学ぶことが,自然への理解を深め,防災への抵抗をなくすことにつながるようだ.
 さらに,教科書にある用語や現象を理解すると,テレビの地震速報や新聞の記述などのがわかるようになり,学習者が学習の成果を実感でき,学習のさらなる動機付けになることがわかった.

4.地理への期待
 高校生と社会人という異なる世代を対象とした実践を通して,共通して実感したことに「地理的な視点」と「地図の読み取り」の必要性がある.それはまさに,平成25年度から実施される高等学校地理Aで柱になっている「地域調査の実践」と「地図を活用した学習の一層の重視」である.この2つは,減災に役立つとされている地域防災マップづくりやハザードマップの読み取りの基礎・基本である.
 自然災害に備えるためには,自然災害の原因となる自然現象を知ること,そして地域を知ることが重要である.その2つを理解してはじめて防災体制を理解することができる.そのためには,自然科学的なアプローチである地学と,社会科学的なアプローチである地理のリテラシーの育成が不可欠である.両科目の充実が,防災・減災教育の充実につながると考える.
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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