抄録
1. はじめに
本研究は,山口県光市を事例に,市民活動団体がまちづくり活動を推進するために必要な知識・情報をどのような手段で入手し,どのようにしてそれぞれの活動充実に結びつけているかという点について解明することを目的とした。研究に当たっては,_丸1_情報を入手する経路,_丸2_情報入手先の空間的スケールの2つの視点から分析を行った。なお,本研究の実査は,資料調査とアンケート調査,聞き取り調査を併用した。
2.光市における市民活動
海軍工敞跡地に製鉄工場や製薬工場などが立地し,工業都市として発展してきた光市は,1964年の周南工業整備特別地域の指定を機に住宅団地や教育施設を次々と整備した。また,企業からの寄付により,文化・スポーツ施設も次々と整備された。1970年代に入ると,ハード整備に加え,市民自らの参加と主体性に基づくソフト重視のまちづくりが指向されるようになり,1973年の光市民憲章制定,1979年の光市総合計画策定などを通じて,「市民参加のまち」が目指すべき都市像の一つとして示された。こうした施政方針に呼応して,光市では公民館活動が活発に行われるほか,市民の発意で「光クリーンアップ大作戦」や「あいさつ運動」が始まり,現在まで30年以上にわたり継続されている。
2005年の「光市市民活動推進のための基本方針」では,コミュニティ活動(自治会),ボランティア活動,NPO活動などの市民活動の推進による,市民と行政との協働によるまちづくりが示された。これを具体化するため,地域づくり市民講座の開催,市民活動補償制度,コミュニティ備品貸出制度,光市地域づくり支援センターの運営などが行われるほか,2008年度からは公民館自主運営体制の構築・支援が進められている。
3.市民活動団体の情報収集パターン
アンケート調査により,光市内の自治会および光市地域づくり支援センターへの登録団体(以下「登録団体」という)で企画立案の中心的役割を果たしている人を対象に,企画を立案する上で参考とする知識・情報の入手手段の比率を尋ねたところ,回答者全体では,「実績・経験(団体の活動実績,個人的経験など)」が49.0_%_で最も多く,これに次いで「社会的ネットワーク(知人,友人,専門家,SNSなど)」が21.7_%_,「学習機会(講座,研修視察など)」が15.5_%_,「データベース(書籍,資料,websiteなど)」が13.8_%_となった。自治会と登録団体を比較すると,自治会は「実績・経験」と「社会的ネットワーク」の比率が,登録団体は「学習機会」と「データベース」の比率がやや高かった。
「実績・経験」に限れば,自治体・登録団体とも「自団体の活動実績」を参照する比率が最も高いが,登録団体は自治会と比べて「企画立案者自身の職業(またはボランティア)経験」の比率が高いことに特徴がある。
「社会的ネットワーク」については,自治会・登録団体とも「自団体の他の会員」から知識・情報を得る比率が40_%_以上と高く,「他団体の知人・友人」がいずれも10_%_強でこれに続いた。自治会と登録団体の違いはほとんどみられなかった。
「学習機会」については,自治会と登録団体で異なる傾向を示した。自治会は「公民館講座」「光市主催の講演会・研修会」「光市地域づくり支援センターの出前講座」などから知識・情報を得る比率が高いのに対し,登録団体は「光市の審議会・委員会への参加」「先進地視察」「山口県等主催の講演会・研修会」などから知識・情報を得る比率が高かった。自治会は主に光市内で提供される学習機会を,登録団体は光市内に限らず光市以外で提供される学習機会を通じて知識・情報を得ていることがわかった。
「データベース」についても,自治会と登録団体で異なる傾向を示した。自治会は「光市広報紙・光市議会広報紙」「光市公共施設での資料閲覧」「光市図書館・公民館での書籍・資料閲覧」などの比率が高いのに対し,登録団体は「光市外の施設やwebsiteでの資料閲覧」「新聞・テレビ・ラジオ」「光市外の書店やwebsiteでの書籍・DVD等の購入」の比率が高かった。すなわち,自治会は光市内で発行もしくは蓄積されている情報を活用することが多いのに対し,登録団体は発行もしくは蓄積されている場所にかかわりなく必要な情報を光市内外から収集している。
以上から,光市の市民活動の例では,自治会・登録団体とも「実績・経験」「社会的ネットワーク」から得られる知識・情報を主に活用しているが,登録団体については「学習機会」「データベース」から知識・情報を得る比率が比較的高く,しかもその活用範囲が光市外にも広がっている実態が明らかとなった。