日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 713
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NCEP/NCAR再解析値から作成した北半球の前線帯データについて
*高橋 信人
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抄録

1.研究目的
 北半球における前線帯分布の年変化の平均的様相は、吉村(1967)、Serreze et al.(2001)など、多くの研究者によって明らかにされてきた。しかし、前線帯の年々変動や長期変動に関する調査は少ない。これは、そもそもこれまで長期間の前線帯データが得られなかったことが大きな原因であると考えられる。一方、著者は2010年の日本地理学会春季学術大会にて、Thermal Front Parameter(TFP)を用いて日本付近の前線帯データを客観的に作成する手法の検討をおこなった。その手法によって得られる前線帯データは、必ずしも気象庁天気図から得た前線帯データと合致するものではなかったが、前線帯の季節進行や特定時期の前線帯を年ごとに比較する際には、大気場の状態を表す有益な情報になると思われる。そこで本研究では、北半球の前線帯データの整備・検証を目的として、日本付近の前線帯データ作成時の条件式を用いて北半球の前線帯データを作成し、得られたデータの平均的な特徴を明らかにする。

2.データの作成方法
 前線帯データを作成するために、まず1948年~2009年におけるNCEP/NCAR再解析値(6時間ごと、緯度経度2.5°×2.5°)の北半球850hPa面の気温と相対湿度のデータから、∇τ、TFP(τ)(τは温度変数を表し、ここでは温位θと相当温位θeを用いる)を算出した。次に、各日時の天気図の各経線上でTFP(τ)の極大が現れるグリッドを探し、さらにそのグリッドが以下の条件を満たす場合に前線があるものと判断した。
A. θの条件式(TFP(θ) ≧ 0.05) かつ θeの条件式(TFP(θe) ≧ 0.70)を満たす場合
B. θの条件式(TFP(θ) ≧ 0.18かつ|∇θ|≧ 0.28)またはθeの条件式(TFP(θe) ≧ 1.00)を満たす場合
※|∇τ|の単位:K/(100km)、TFP(τ)の単位:K/(100km) 2
以下、このようにして作成した前線帯データをそれぞれ、データA,Bと表す。なお、これらの閾値は、気象庁地上天気図上の日本付近の前線との対比によって定めた(この手法の詳細は2010年の春季学術大会にて報告した)。

3.結果
 図a,b(図c,d)は、データA(データB)の1月および7月の北半球の前線帯を前線頻度分布(%)(1948年~2009年平均)で表したものである。これらの図を吉村(1967)と比較すると以下のことが読み取れる。
・太平洋寒帯前線帯と大西洋寒帯前線帯は、データA,Bともに明瞭であり、1月から12月まで追うことができる。
・データAでは、10月~4月のユーラシア寒帯前線帯や北アメリカ北極前線帯が不明瞭である。
・データBは、データAと比べて全体的に前線頻度が高く、例えば1月の日本南岸に沿って、データAでは見られない寒帯トラフに対応する前線帯がみられる。また、多くの極前線も明瞭である。
 データAはθeのみ、データBはθのみを条件式に用いたものに類似しており、図の特徴の違いは、各前線帯の性質の違い(温位傾度、相当温位傾度のいずれで特徴づけられるか)などを表していると考えられる。これらの結果は、概ね先行研究で指摘されていた前線帯の年変化の特徴を表現しているため、今後、これらのデータで各前線帯の年々変動、長期傾向をみていくことが可能であると思われる。

謝辞: 本研究は財団法人福武学術文化振興財団の歴史学・地理学助成を受けた。また、本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金若手研究 (B) No. 22700856 による

引用文献: Serreze, M.C., Amanda, H.L., Clark, M.P. 2001. The Arctic Frontal Zone as Seen in the NCEP–NCAR Reanalysis. Journal of Climate, 14, 1550-1567.
吉村 稔 1967.北半球の前線帯の年変化. 地理学評論,40, 393-408.

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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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