抄録
1.はじめに
2007年8月16日に、岐阜県多治見市内のアメダス観測地点において、埼玉県熊谷市と並んで国内最高気温の40.9℃が観測された。多治見市は、盆地内部に位置しているため、熱が滞留しやすい環境下にあると言われている。さらには、多治見市内の市街地においては緑地が少なく、住宅など建物が込み入っており、風が通り抜け難いという環境により、ヒートアイランドの影響も疑われている。一方で、海風による名古屋からの暖気移流が侵入するとも言われている。また、多治見市で日本一の気温が観測されるのにはアメダスの観測地点の周囲の環境が影響しているとも言われている。しかしながら、アメダスデータのみから、多治見市内の熱環境を評価することはできない。
2.目的
本研究では岐阜県多治見市および愛知県春日井市において気温観測を行うことによって、多治見市内の熱環境の実態調査を行う。さらには、局地気象モデルWRFによる局地的な高温現象の予測精度に対して検証を行う。
3.観測概要
岐阜県多治見市内の都市区内公園(2カ所)および小中学校(11カ所)と、愛知県春日井市の都市区内公園(1ヵ所)および高校(1ヵ所)にて、おんどとりJr.を用いた定点観測を7月31日~8月31日の1ヶ月間、2分間隔で実施した。
また、アメダス地点の特異性を確認するため、多治見アメダスおよび多治見市内の都市公園(2カ所)および春日井市内の都市公園(1カ所)にて集中観測を行った。
4.結果
多治見市内の高温現象の原因を探るため、多治見市内の気温分布の解析を行った。その結果、多治見市内の都市部でヒートアイランド現象の影響が確認できた。また、盆地内部の多治見市と外部の春日井市の気温を比較すると、それほど大きく差が見られないことから、盆地効果はあまり強く影響していない可能性がある。
さらに、集中観測の結果から、アメダス地点で観測した気温が他の観測地点の気温よりも高く出ていたことから、多治見アメダス付近は特異的に気温が高くなっている可能性がある。
また、多治見市が猛暑を観測した日の濃尾平野内のアメダスの風向風速を見てみると、この事例での風は弱く、海風が多治見市内に入ってきているようには見えないため、海風侵入による熱の移流の影響はないことがわかった。WRFの結果は多治見の高温を現時点では十分に再現できておらず、計算設定やモデル改良の必要性があることがわかった。
謝辞
本研究は筑波大学計算科学研究センターと多治見市の共同研究によって実施された。本研究の一部は、一般財団法人日本気象協会の支援を受けて実施された。
