日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 818
会議情報

カザフスタン・イリ川下流域における完新世河成地形面の分布とその形成年代
*清水 整須貝 俊彦中山 裕則佐藤 明夫門谷 弘基遠藤 邦彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに  イリ川は天山山脈に水源を持ち,中央アジア,カザフスタン共和国中部のバルハシ湖に注ぐ内陸河川である.イリ川は乾燥気候に属し,下流域においてはイリデルタと呼ばれる広大な平坦面が広がり,旧流路の痕跡が明瞭に観察される.とくにバカナス(図1)付近において現流路が西に向かっている一方旧流路は北に向きを変えており,流路が分岐しているようにみえる.  イリ川の注ぐバルハシ湖周辺の環境変動に関しては,バルハシ湖での湖底コアの珪藻分析や化学分析などによる過去2000年間の湖水位変動が復元されつつある(Endo et al.,2010;千葉他2010;Sugai et al.,2010など).イリ川はバルハシ湖に流入する河川水の80%を占めており,イリ川下流部の地形面の形成時期と形成過程を求めることは陸上地形の形成史の解明だけでなくバルハシ湖の環境変動に関する手がかりとなることが期待される. 2.手法 縮尺10万分の1の地形分類図を作成した.Google earthの衛星画像データ,SRTM30のデータを基とした陰影図を用いた.(図1).2010年8月に現地調査を行い,現地では,地形測量と段丘堆積物と旧流路の堆積物の観察・記載・サンプリングを行った. 3.地形面分類の結果 イリ川下流の地形は,現流路の氾濫原を最下位面として,T1~T5の5つの地形面に分類された. T1面は更新世に形成されたと考えられる河成面であり,loc.1(図1)では,中砂から泥質に上方細粒化を示す堆積ユニット2サイクル観察された.またT1面は植皮された縦列砂丘に被覆されており,イリ川沿いでは,更にその上を現生の河畔砂丘が覆っている. T2面はバクバクティより北に分岐したイリ川の旧流路に沿って分布している,その面上にはT1面ほどではないが風成砂の堆積が進んでいる(loc.2, 図1). T3面はバカナスデルタと呼ばれ,面上には旧流路が明瞭に残存している.loc.3(図1)の旧流路の横断方向に,深さ約1mのピットを5つ掘削し,流路堆積物と考えられる淘汰の良い砂質堆積物に含まれる貝片と流路の湿地化を示す腐植質土壌からそれぞれ,1500年前頃と700年前頃の14C年代値を得た.この年代値は従来13~15世紀といわれていた(Adbravilov and Tuleburanka,1994) ,バカナスデルタの形成年代より古い. T4面はイリ川の現河道に沿って存在する.この面はイリ川が西行するようになってから形成された面であり,T4面上に残存する旧流路は,大規模増水時には氾濫流が流入するとみられる. T5面はイリ川の現河道の氾濫原であり,現流路沿いに存在するものの,その面積は小さい. 以上よりイリ川はバクバクティより分岐し北に流下した時代の後,1500年前より以前にバカナスを経由し北に流下するようになり,バカナスデルタを形成したのち西に流路を変え,T3面を700年前以降に段丘化するようにT4,T5面を形成したと考えられる.

著者関連情報
© 2011 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top