抄録
1.はじめに
本発表の目的は裁判所の公示に基づく競売物件情報を手掛かりにして、郊外住宅地をめぐる新たな問題点を提起することである。2007年にアメリカ合衆国を発端としたサブプライムローン問題では、家計の債務不履行(デフォルト)が住宅ローンを不良債権化させ、世界的な金融危機に発展した。住宅ローンの貸し倒れリスクを回避するために、金融機関が滞納者の資産を差し押さえた結果、念願のマイホームを手放さざるを得ないという問題に直面している。
わが国でも景気回復のカンフル剤として、民間金融機関や住宅金融支援機構などが、低金利ローンや頭金不要の貸し付けを設定し、従来、融資対象外であった所得層に対しても幅広く融資を行った(才田2003)。その結果、長期にわたる構造不況と相まって、住宅ローンの返済が重く圧し掛かる家計は少なくない。一億総中流の中核地であり住宅双六の「あがり」と称されてきた大都市圏の郊外住宅地は、いまや「あがり」ではなく、終の棲家として購入したはずの持家住宅からやむを得ず居を移すという、消極的な転居が惹起されよう。そこで本発表では、これまで着目されてことなかった競売物件の空間的な特性を考察して郊外住宅地の新たな問題点を提起する。
2.データ
本発表ではBITシステム(Broadcast Information of Tri-set System)で公開されている物件明細書、現況調査報告書、評価書の概要データを用いる。このデータは全国の裁判所(ただし一部を除く)で公示された競売物件の概要(所在地、用途、土地面積、建蔽率、容積率、家屋面積、築年数、評価額等)を過去3年間にわたって把握することができる。なお、2010年1月から12月までの競売物件数は、戸建住宅が6,035件、集合住宅が4,880件であった。
3.結果
全国の新受民事総数に対する競売件数の割合は2003年以降、拡大傾向にあり、金融機関等が住宅ローンの不良債権を競売で処理する動きを強めているとみられる(図1)。
直近2010年の状況を一都三県の裁判所別に考察すると、戸建住宅では千葉地裁本庁が2,398件(29.3%)、集合住宅では東京地裁本庁が1,611件(33.0%)とそれぞれ最も多い。特に戸建住宅の競売物件は、千葉県八街市や山武市、富里市、埼玉県久喜市、加須市、本庄市など、概ね都心から40Km以遠の外部郊外に集中している。つまり、人口の郊外化が顕著であったバブル経済期前後に開発された外部郊外の住宅地に競売物件が多いという傾向が認められる。
