日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0108
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石灰岩地域のジオツーリズムと防災教育
*尾方 隆幸
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抄録
1. 発表の概要
日本列島の自然災害は多様であり,実に様々な領域の防災教育が必要になる.また,防災教育は,学校教育だけではなく,生涯教育でも十分に実践される必要がある.ジオツアーはその手段として有効であるが,火山・地震に関するジオツアーは注目されているものの,それ以外の自然災害を考えるジオツアーはまだ不十分といえよう.
本発表では,琉球列島で取り組んでいるジオツアーの開発と実践について報告し,防災教育における意義を議論したい.この地域でジオツアーと防災教育との連携を考えるとき,最もわかりやすい教材は「津波石」に違いない.しかし,「津波石」の取り上げ方には工夫が求められよう.さらに,防災教育の本質を考えると,教材になりうるジオサイト資源は,直接的な災害遺産である「津波石」に限らない.地形学者は,より一般化できる素材をテーマにジオツアーを作り上げることも重要であろう.

2. 琉球列島におけるモデルジオツアーの開発
発表者は,琉球列島におけるジオサイト資源のリストアップと,それらのジオサイトで構成されるジオツアーの開発に取り組んできた.琉球列島のジオサイト資源として,サンゴ礁景観(裾礁,離水サンゴ礁,隆起サンゴ礁段丘,隆起環礁),石灰岩・カルスト景観(古期石灰岩,第四紀琉球石灰岩,石灰岩堤,コーン・コックピットカルスト,石灰華段,鍾乳洞,地下水系・湧水),海岸景観(サンゴ砂,星砂・太陽砂,サンゴ洲島,津波石・台風石,ノッチ,ビーチロック,干潟),河川景観(熱帯的河川地形,マングローブ林),さらに亜熱帯の自然環境に関連する景観(水田二期作,防風林・サンゴ石垣,赤色土)などがリストアップされた.
これらのジオサイト資源をベースに,まずは「サンゴ礁と海岸地形」「石灰岩とカルスト地形」「亜熱帯の河川地形」の3つをテーマに選び,個々のジオサイト資源をストーリーで繋いだジオツアーのモデルコースを開発した.ジオツアーのストーリーの軸には「自然史」「流域」「地形形成作用」を置き,それに気候地形学的要素を加えることで,琉球列島の地域性を前面に出すことを試みた.
これらのうち,「サンゴ礁と海岸地形のツアー」では防災教育の要素も取り入れた.このツアーでは,海岸に点在する岩塊群に着目している.これらの岩塊には,琉球石灰岩の崖の後退によって陸域から供給された落石と,津波や台風によって海域から打ち上げられたサンゴ礫とが混在している.侵食・堆積作用という地形学の基本的なトピックの中に「津波石」を組み込み,ダイナミックな地形変化の中で防災教育にも触れるオリジナルのツアーを考案した.

3. ジオツアーの防災教育的意義
防災教育,とりわけ変動帯の防災教育の本質は,「大地は変化する」ことを正しく伝え,人間はその変化の一断面に接しているに過ぎないことを理解させることであろう.風化・侵食・運搬・堆積からなる地形形成プロセスは,地形や堆積物として残される.また,すべての地形変化は,人間の居住地域で発生すれば,直接的に災害になりうる.防災教育においては,可視的な地形や堆積物を「大地の遺産」として活用し,地形が変化するという事実を理解させることが何よりも重要である.それぞれの地域に精通している全国の地形学者が,「大地の遺産」をジオサイト資源として評価し,防災教育に活かしていくことが望まれる.
これまでの各地のジオパーク活動は,地域主導で進められてきた.地域主導がジオパーク活動の本質であることは間違いない.しかし,その一方で,地形学の一般理論から研究者がジオツアーを開発していくことも必要であろう.その際には,いうまでもなく,発達史地形学とプロセス地形学の両者の視点が必要である.
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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