日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 408
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アメリカ合衆国南西部における砂漠都市の開発とその存立基盤
*山下 博樹
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抄録

1.はじめに
 地球上の全陸地の約4割を占める乾燥地では,もはやその都市開発は技術的に克服可能となり、先進国や産油国などの富裕国では活発に都市開発が進められ,人口1000万を超えるメガシティも出現した(山下 2010)。その乾燥地の自然環境は,年間降水量や乾燥度,気温などの地域較差が大きく,比較的乾燥度の低い半乾燥などの地域では都市分布も密であるが,砂漠など極乾燥の地域では都市開発の課題も多く,その分布は粗い。
 本報告では,広く乾燥地が卓越し,かつ都市開発も活発なアメリカ合衆国南西部を対象に,そこでの都市開発の動向を人口増減とその要因となった背景などの点から明らかにすることを目的とした。なお本研究で対象としたアメリカ合衆国南西部にはいくつもの定義が存在する。本研究では乾燥地の都市を研究対象としていることから,その範囲をアリゾナ,ネバダ,ユタ,カリフォルニア,コロラド,ニューメキシコの6州とした。

2.アメリカ南西部の乾燥地と都市の分布
 アメリカ南西部には,モハーベ砂漠,グレートソルトレーク砂漠などいくつもの砂漠とグレートベースンやコロラド高原などの荒涼とした大地が卓越している。カリフォルニア州の太平洋沿岸を除くと全般的に乾燥度が極めて高く,年間降水量250mm以下の乾燥地も広がっている。ここでは,ロサンゼルスやサンフランシスコなど大都市の活発な経済活動を背景に,カリフォルニア州にはこの両都市圏のほかにもそれらをむすぶ州道99号線沿いにサクラメントやフレズノなどの中規模都市圏が形成されている。これに対し他の5州は人口規模も小さく,より厳しい自然環境と脆弱な幹線道路体系などにより都市の形成は極めて限定的である。つまり道路交通の結節地や各種資源の存在などを背景に発展した州都などの都市では人口増加の進展により周囲に多くの郊外都市を発達させ都市圏を形成しているものの,図1に示したように人口10万以上の都市はわすかである。そうした各州の主要都市圏から外れた地域では人口数万かそれ以下の規模の都市や集落が分散的に立地している状況にあり,なかにはその役割を終えゴーストタウン化した街もある。
 このようにカリフォルニア州をのぞく内陸の5州では大都市の分布はわずかであるが,これらの都市圏の近年の人口増加率は全米でも上位を占めている点は注目に値する。例えばラスベガス都市圏は税制優遇策によりかつてのギャンブルや観光などに加え情報通信産業などの企業進出が活発化している。その結果,都市圏の人口は1990年の74.1万人から2009年には190.3万人へと急増している。またフェニックス都市圏も1970年代以後サンベルトの発展と高齢な富裕層の移住先として,1990年代からはロサンゼルスへの近接性と安価な労働力を背景としたエレクトロニクス産業の進出によるシリコン・デザートの発展などを背景に人口が増加し,全米第5位の都市圏に成長した。

3.砂漠都市の開発とその持続可能性
 上述したようにアメリカ南西部の都市発達は,カリフォルニア州をのぞくと各州の主要都市に限定され,人口増加もそれらの都市に集中し都市圏が形成されている状況が確認された。これらの都市にはラスベガスやフェニックス,アルバカーキなど年間降水量250mm以下の砂漠に発達したものもある。砂漠での都市開発は,従前に農地などの土地利用がされていないことが多いため容易に進展しやすく,市街地の面的な拡大を促しやすい。その結果,例えばフェニックス都市圏では98人/㎢という低密な居住人口密度の市街地が形成され,夏季の高温な気候とも結びついたクルマ依存のライフスタイルが定着しており,公共交通を再編し,持続可能な都市圏の形成を目指す地元自治体にとっても大きな課題となっている。

 本研究は,鳥取大学乾燥地研究センターの平成22年度共同研究「北米乾燥地における都市の発達とその特性」と平成22年度科学研究費補助金基盤研究(B) 「都市圏の構造変化メカニズムと多核的都市整備に関する学際的研究」(研究代表者 藤井 正)の成果の一部である。本テーマでの共同研究を受け入れて頂いた篠田雅人先生に御礼申し上げます。

文 献 山下博樹(2010)乾燥地における都市開発の動向とその課題,篠田雅人ほか編『乾燥地の資源とその利用・保全』古今書院,pp.161-180

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