日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 422
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3次元GISによってバーチャルに作られた通りの移動に伴う空間的記憶
*矢野 桂司東山 篤規
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抄録
I はじめに
 われわれは,知らない土地に住むようになっても,やがてその街並みを記憶にとどめ,目を閉じてもそれを想起することができるようになる(たとえばLynch, 1960).このような空間的な記憶像は,認知地図とよばれる.この報告では,認知地図の生成過程の一端を明らかにするために,3D-GISによって作られた通りのバーチャル空間(矢野ほか,2007)の中を観察者に自由に移動させ,その直後に,記憶された建物の位置を再生させるという実験を行った.実験では,事前に独立変数を設定するというよりは,観察者の反応から認知地図の生成に効果があると推定される変数を明らかにする方法が採られた.
II 方法
 被験者.6大学(院)生(男2人,女4人).どの参加者も,本実験で使用した地区に出かけて行った経験がほとんどなかった.
 装置.被験者がPCのマウスを操作することによって,京都市三条通(東端の柳馬場通と西端の烏丸通に挟まれた東西約376mの通り.三条通に沿って新旧さまざまな建物が林立し,東洞院通,高倉通,堺町通が南北にこの通りを横断する)の光景がPC画面(24.1インチ)上に映し出され,被験者はこの通りに沿って自由に移動しているというバーチャルな体験を得ることができた.実験中に被験者が,通りのどの場所に位置し,どの方向を向いていたかは,被験者の行動をビデオカメラによって録画し、特定された.
 手続き.実験は5試行からなっていた.各試行において各被験者は,マウスを使って,三条通東端からこの通りを3分間自由に移動して,建物の位置を記憶するように求められた.移動の直後に被験者には特定の10建物の写真画(ターゲット)が与えられ,それらを,三条通りを横切る主要な通りと区画のみを描いた白地図の上に,正しく置くように求められた.被験者は,自分の好きな順序でターゲットを置き,その位置を変えることもできた.反応の正誤は被験者に教えられなかった.
III 結果
 移動.被験者の移動を明らかにするために,各試行において10秒ごとに各被験者の位置を求め5試行の平均値を得た.図1は全被験者の平均的位置の変化を示す.横軸は経過時間,縦軸は三条通東端からの距離を示す.被験者は一般に,三条通りの東端から西に向かい西端の手前から折り返している.
 正答数.図2はターゲット(建物の写真)の関数として,それが正しく置かれた回数の平均値(N = 6)を示している(最大5回).この平均正答数を目的変数とし,ターゲットの大きさ(最小のターゲットを1,最大を10とする),出発点にあるターゲット,建物との遭遇回数を説明変数として重回帰分析を行った.切片は0と仮定した.その結果,ターゲットの大きさ(t = 6.85, p < .001)と出発点にあるターゲットの効果が有意であった(t = 2.54, p < .05).図2には,これらの説明変数からの予測値も表わす.実測値との適合度はかなりよい(R2 = .97)
 正答数の高いターゲットは,建物D,G,H,Jなど大きな対象であることがわかった.一般に小さな建物C,E,Fの位置は記憶に残りにくいが,小さい建物でも出発点に近いと,建物Aのように,高い正答数が得られる(初頭効果)ことが示された.
IV 考察
 認知地図が記憶に残るものを中心に生成されるとすれば,本実験の結果は,よく目立つ大きなものや出発点のような空間の基準枠を与えるものを中心に認知地図が作られていくことを示す.また3D-GISによるバーチャル空間が,実験道具として利用価値が高いことも示された.
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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