日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 307
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共同参加型アンテナショップにおける地方自治体の販売活動
-ハッピーロード大山商店街「とれたて村」を事例として-
*上村 博昭
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抄録

1.東京都心におけるアンテナショップの現状  1990年以降,東京都心部においてアンテナショップ(以下AS)が急増している(畠田:2010).ASとは本来,企業が市場のニーズを調査するための店舗を意味するが,派生して地方自治体が大都市圏等に設ける物販・情報発信施設にも用いられる.その設置目的は,物販・情報提供を通じた地元の魅力発信のほか,都市部での情報収集にある.  このうち地方自治体が関係するASは,自治体や関連団体が直接運営に携わる「自主運営型」と,商店街など消費地の団体や個人が運営する店舗に、複数の地方自治体が相乗りする形で商品のみを供給する「共同参加型」とに大別できる.前者は都道府県のASに多く見られ,後者は財政規模や商品供給能力の面で制約が多い市町村単位での出店に多く用いられる.一方斯学において,ASを取り上げた既存研究は「自主運営型」を対象とするものが大半を占め,「共同参加型」を検討したものは非常に少ない.  本報告では,以上のような目的意識の下に,板橋区ハッピーロード大山商店街が運営する「全国ふる里ふれあいショップ とれたて村」を事例として,「共同参加型」ASの設立経緯,運営状況,ならびにアクターの意識や動向を検討する.なお報告は,「とれたて村」を運営する商店街ならびに「とれたて村」に商品を供給する12市町村へのヒアリング調査に基づくものである. 2.「とれたて村」の概要とアクターの利害  「とれたて村」は,ハッピーロード大山商店街が2005年に板橋区の補助を受けて設立した一次産品及び加工品の販売所であり,店舗面積56_m2_,商品数1,000アイテム,年間売上高5,100万円の規模を有する.2010年秋現在,参加自治体は北日本を中心とする12市町村であり,店舗の運営理念は「産直」と「食の安心・安全」である.  同店の設立契機は,商店街が百貨店の物産展を模したイベントを実施したことに始まる.イベントの集客力に注目した商店街は,区の空き店舗対策事業を利用し,常設店舗化に踏み切った.開店3年目に板橋区の補助が終了した後も,商店街が地方自治体に働きかけ,商店街自身の運営で黒字を確保している.  商店街にとって「とれたて村」は,集客装置,空き店舗対策,補助金の受け皿としてのメリットを持つ一方,店舗運営リスク,事務経費,組合員への配慮等のデメリットを抱える.他方,参加市町村は,低リスク,低コストで都内の販売・PR拠点を確保し,消費者の情報を得られるメリットを持つ一方で,収益性やPR効果が低い,店舗のコントロールが難しい,競争が激しい等の課題を抱える.その結果,参加市町村の入れ替わりや,運営コンセプトの揺らぎ等の課題も顕在化している. 3.結論  「とれたて村」に代表される「共同参加型」ASと「自主運営型」ASとの相違点を地方自治体の立場から捉えると,安く手軽に都市部の拠点を設けることが出来る半面,参加市町村が複数のために競合(産地間競争)が生じる,運営主体の意向で店舗の性質が変わり易い,詳細な消費者情報が得にくい等の欠点があると言える.  こうした課題を抱えつつも,「共同参加型」ASは,地方の市町村にとって重要な販路拡大の手段であり,地域間交流や新たな公民協働(PPP)としての可能性を有する.しかし,「共同参加型」ASが根付くためには,地元消費者を含む全てのアクターが,メリットを享受できる仕組みを構築することが重要である.

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