日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 308
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公共サービス供給における自治体間の相互参照の実態
千葉県内の公営ガス事業の事例
*佐藤 正志
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抄録

1.本発表の目的
公共運営に対して,近年では政府だけでなく,市場や住民といった多様なアクターの相互交渉と合意を通じたローカル・ガバナンスへの転換が目指されている.地理学でも,ローカル・ガバナンスに関して,主体間での連携を対象とした考察も見られる.
 従来の日本の地理学の研究では,行財政運営の再編を考える際に,自治体内部での主体間関係が中心にして検討されてきた.一方で自治体間での関係は,近隣効果に関する議論を除けば,政策形成に対する影響力を考察したものは少ない.他分野では,自治体での政策形成や運営では相互に関係を持つことが示されてきた.しかし,自治体が参照する際に,地域条件や近接性をどのように判断に入れているのか,考察されていないのが課題として残る.
 以上の点を踏まえて,本報告では自治体における公共サービス供給において,自治体間での水平的関係が公共サービス運営や事業再編にもたらす影響を考察する.特に,従来の研究では研究とされてこなかった,国による政策決定がなされた後の自治体間関係を考察するため,千葉県内の公営都市ガス事業に対象にした.

2.都市ガス事業の概要と公営事業者の動向
 本報告で対象とする都市ガス事業は,国による規制が強い産業であった.ガス事業は,大規模な資本投資が必要であり,地域独占が働く産業である.大都市圏の大手4社を中心とした民間企業が供給の中心を担う反面,公営事業者は小規模であり,契約数は数千程度のものが大半である.
 1990年代以降ガス事業をめぐる動向は大幅に変化している.1995年以降の段階的な規制緩和進展,1990年の資源エネルギー庁IGF21計画による高熱量化の推進,2007年に北見市で発生したガス漏れ事故に伴う経年管の交換促進といった,エネルギー間競争への対応や事業改善に向けた大規模な投資の必要性に迫られている.
 都市ガス事業全般をめぐる動向や公営企業再編を受けて,公営ガス事業者の中には民営化を進める自治体も相次いだ.全国で最大75あった公営事業者は,市町村合併の影響もあり2010年末には30まで減った.
 千葉県では,東部で採掘される天然ガスを利用した,公営ガス事業者が多く存在しており,各事業者とも経営は黒字で安定していた.しかし,行財政改革の進展等に伴い,1990年に旭市が,1995年に成東町が,2006年に四街道市が近隣の事業者に随意契約で譲渡している.

3.事業運営における自治体間での参照関係
 千葉県内の事業者に対して,調査票および聞き取りにより自治体間での関係を確認したところ,_丸1_日常的な需要家への対応,_丸2_ガス供給に関する技術導入や,条例の制定にかかる情報の導入,_丸3_民営化の検討や事業再編の決定の3点で,自治体間での参照関係が異なることが示される.
 日常的な需要家の対応の点では,同一郡市内でガス事業を運営する自治体に問い合わせを行うことが中心である.この相互関係では,議会や管理者レベルよりも,担当者レベルでの関係が中心であり,電話や電子メールを通じて頻繁に参照している.こうした活発な参照が行われるのは,郡市内での連絡協議会を通じて,職員同士の交流があること,近接しているためお互いのガス事業運営状況をよく認知していることが大きい.
 技術や条例制定の際の参照は,どの自治体でも習志野市を対照としている.これは,千葉県内の都市ガス事業者で形成される「房総ガス協議会」の公営部会が習志野市に置かれている点,習志野市が技術部門を自前で保持しており,職員や技術情報を保有している点が大きい.参照は,年に数度の事業部会や研修の際に情報を得ている.技術面や条例作成の際には,各事業者が直接習志野市を参照にするが,習志野市以外の自治体を対象とすることはほとんどない.
 民営化の検討においては,近接した自治体を参照にするとは言えない.同一の県内の例として,四街道市への参照を行うことはあるが,多くは最近民営化を進めた事例への問い合わせや視察が中心である.類似した自治体や近隣の自治体を参照にするよりも,民営化を直近に行ったかが参照の決定においては重要になる.これは,民営化の対応にあたって事業者の選定,安全性の確保,需要家への対応,職員配置といった多岐にわたる課題解決のための情報入手が重要になるためと考えられる.

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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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