日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 608
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熊本県域における飲酒嗜好の地域的展開
*中村 周作
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抄録
 1.はじめに  好まれる酒類について九州地方をみると,北部(大分・福岡・佐賀・長崎各県)は,近年傾向に大きな変化がみられるものの,伝統的には清酒嗜好地域と言える。これに対し,南九州は,焼酎(単式蒸留しょうちゅう)嗜好地域である。それらの中間に当たる宮崎県や熊本県域は,清酒と焼酎のせめぎ合う地域となっている。筆者は,先に宮崎県域を事例に飲酒嗜好地域の分化,形成過程について考察した(2009)。この調査では,宮崎県内の全市町村について計94件の酒小売店をピックアップし,聴き取りアンケート調査によって,地域的に好まれる酒の違いとその酒が住民から支持されている理由などに関する情報を得た。その結果,宮崎県域を6つの飲酒嗜好地域(_I_:伝統的薩摩型;25度イモ焼酎圏,_II_:宮崎型;20度イモ焼酎圏,_III_:人吉型;25度コメ焼酎圏,_IV_:延岡型;清酒・連続式蒸留しょうちゅう圏,_V_:延岡後背地型;連続式蒸留しょうちゅう圏,_VI_:県北山間地型;25度雑穀焼酎圏)に分けることができた。  本研究では,熊本県域を事例に飲酒嗜好の地域的な違いや好まれる理由,近年の動向などについて明らかにする。調査方法として地元に密着する酒販店をNTTタウンページから無作為抽出し,各市町村(全45)店舗数の全体比で割り振った109件を対象に聴き取りアンケートを実施した(実施期間:2010年11月~2011年2月)。  2.熊本県域における近年の飲酒嗜好  熊本国税局資料より,1967年以降の熊本県域における酒類消費動向について概観する(図)。  増加を続けてきた飲酒総量は,1999年をピークに漸減している。酒類別では,ビールは1994年まで順調に増えた(1967年からの増加率232.5%)。その後は,発泡酒(1995年~),第3のビール(2004年~)といった類似商品の台頭によってビール自体は減じている。かつて県民酒として支持されてきた清酒は,一貫して減少を続け,1967年からの減少率が74.1%となった。また,長らく愛飲されてきた連続蒸留しょうちゅうも1987年以降急減した。これに対し,単式蒸留しょうちゅうの台頭が著しく1967年からの増加率が321.0%となった。この中でも清酒に変わる県民酒となったコメ焼酎と近年増加著しいイモ焼酎の関係,また45市町村別にみた嗜好の地域的特徴などについて,発表時に詳述する。 付記 本報告は,平成22~25年度科研基盤C「伝統的飲食文化とそれらを核とする地域振興に関する研究」(研究代表者中村周作,研究課題番22520801)の成果による。 文献 中村周作2009.『宮崎だれやみ論-酒と肴の文化地理-』鉱脈社。
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