抄録
1.はじめに
畑作業,畜産業,漁業の盛んな北海道では,有機資源が多く存在しており,特に畜産有機資源は道内で偏在している.畑作業から酪農業へ転換し,酪農業と漁業を基幹産業としている北海道別海町を取り上げる.大規模酪農地帯へと発展する一方で,河川の水質汚濁が深刻化し,漁業への影響が危惧されている.
本研究では,寒冷酪農地帯における排せつ物処理と副産物還元の実態を明らかにし,耕畜連携における課題を考察する.
2.別海町における酪農業の変遷
別海町では1884年に生乳生産が開始され,1933年に「農業開発5カ年計画」を立ち上げ,主に根釧台地で酪農業が行われるようになった.1954年に「根釧機械開拓地区建設事業(以下,パイロットファーム事業)」に基づき,ブルドーザーを利用した開墾が行われた.1973年には,根釧台地の酪農業の基礎を築いたパイロットファーム事業から「新酪農村建設事業」に移行した.
現在では年間生乳生産量が48万tであり,国内生産量が最大となっている.酪農業の経営規模が拡大する一方で,環境への影響も出てきた.
3.畜産環境汚染と排せつ物処理方法
酪農家は50ha以上の採草地を所有しており,排せつ物は自家経営内に野積み,素掘りを行っていた.悪臭や過剰施肥の問題を取り上げられることはなかったが,10年程前,河川の水質汚濁,悪臭の問題が取り上げられるようになった.野積み,素掘り処理をしていた排せつ物が河川へ流入し,牛舎の臭気,水は濁り,泡立っている状況になった.また,採草地の土地更新時に土砂が河川へ流入していたこともあり,サケやマスの産卵場がなくなり,漁業へ悪影響を与えるようになった.
多くの酪農家は国営灌漑排水事業,畜産環境リース事業を利用し,「家畜排せつ物法」が施行される以前に堆肥舎やスラリータンクを個別に導入した.2001年度からバイオガスプラントが試験的に導入され,その施設を利用している農家もある.環境汚染を進行させないために,1回10aあたり3t,年間10aあたり7t未満の散布を農協で義務づけている.また,寒冷地であるため,採草地への散布は5月中旬から11月中旬とし,凍結時期は排せつ物処理施設へ堆積している.
4.コントラクターの役割
酪農業は経営者夫婦で行っていることが多い.広大な土地を所有し,牧草栽培と適正な排せつ物処理をすべて行うことは時間的,体力的に農家への負担が大きい.
経営者は生乳生産に専念するため,牧草収穫やスラリー散布をコントラクターに委託し,作業を分散している.また,数戸の酪農家が共同で排せつ物施設設置,排せつ物処理,堆肥散布,牧草採取などを行っているところもある.コントラクターに委託することにより,酪農家は高額な機械を所有しなくてもよい.コントラクターは別海町で酪農業を継続するために重要な役割を果たしている.
5.まとめ
別海町では,自家経営内で発生した排せつ物は堆肥として自家採草地に散布し,粗飼料生産・利用しているため,自己完結型の耕畜連携がほぼ完成している.余剰している堆肥や粗飼料は基本的に町内で消費しており,地域内資源循環が行われている.