日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 621
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北海道十勝地方における大規模肉用牛飼養の展開とその存立基盤
*川久保 篤志
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抄録
1.はじめに  わが国の肉用牛飼養は,1970年代以降の牛肉需要の増加を背景に成長し,主に九州と北海道に大規模産地が形成されてきた。しかし,1980年代後半以降の輸入牛肉の増加は,牛肉需要を一層伸ばすと同時に国産牛肉の価格下落をもたらした。そしてそれは,輸入牛肉と肉質が近い乳用種の牛肉の方に大きくあらわれた。  わが国の肉用牛の大半は,肉用種の和牛と乳用種のホルスタインで占められているが,ホルスタインの多くは北海道で飼養されており,その地域経済における地位も小さくない。図1に示したように,1991年の輸入自由化以降の乳用種の肉用子牛価格(平均取引価格)は約20万円から7万円へと大きく下落し,その後も価格変動を繰り返しながら10万円以下のレベルで推移している。 しかし,このような価格情勢の中でも乳用種肉用牛の飼養頭数は,1991年の107.3万頭,2000年の112.4万頭,2009年の103.3万頭と大きな変化はなく,経営は継続されている。これを可能にしている要因の1つが,子牛・枝肉に対する価格保証制度(不足払い制度)である。図1には,このうちの子牛に設定されている保証基準価格の推移について示しているが,1992~95年,1998~2004年には子牛市場での平均価格との乖離が大きく,産地の維持にとって大きな意味を持っていたといえる。  しかし,政府による価格保証だけで赤字経営が長期にわたって存続しうるとは想定しがたい。そこで本研究では,わが国最大の乳用種肉用牛の肥育産地(以下,乳オス肥育)である北海道を事例に,その存立基盤について検討する。 2.北海道における肉用牛飼養の動向と十勝地方の大規模経営 1)北海道における肉用牛飼養の動向  酪農の盛んな北海道では,1970年代以降に酪農副産物である乳用オス牛の肥育経営が活発に行われるようになり,現在,約34.9万頭が飼養されている(肉用種は18.6万頭)。自由化以降の変化としては,肉用牛全体では図1に示したように増加傾向にあり,1経営体当たりの飼養頭数も1991年の72頭から2009年の178頭へと大規模化が続いている(畜産統計より)。 2)十勝地方における大規模乳オス肥育経営 北海道では肉用牛飼養は広く行われているが,酪農が盛んで飼料栽培にも適した道東地方,中でも十勝地方が突出した地位にある(図1)。しかし,十勝の中でも農牧業経営には地域差があり,帯広市を中心とした十勝中央部の平野では畑作の方が盛んである。肉用牛飼養が盛んなのは,帯広市の北および西に隣接する地域で,和牛については十勝の東部・南部の方が盛んである。 そこで本研究では,乳オス肥育の大規模経営が多くみられる鹿追町・新得町・清水町・芽室町と和牛も多い足寄町を対象に2010年9月に現地調査を行った。その結果,乳オス肥育を中心とした肉用牛飼養の成長には地元農協の関与(例えば,素牛調達や子牛販売,畜舎建設や牛肉加工)が大きく,それが十勝における経営の地域差を生み出していることが明らかになった。また,自由化以降は超大規模経営が生まれる一方で,負債を抱えて廃業していく農家も多く,階層分化の進展もみられた。なお,発表当日にはこのような状況を踏まえながら,十勝における乳オス肥育経営の存立基盤についてもう少し詳しく検討を加える。 ※本研究の調査には,科学研究費補助金 基盤研究(C)「グローバル経済下におけるわが国周辺地域の肉用牛生産の成長と自立」(課題番号:19500881,代表者:川久保篤志)を使用した。
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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