日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1403
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発表要旨
自然教育園における冷気のにじみ出し現象
*清水 昭吾菅原 広史成田 健一三上 岳彦萩原 信介高橋 日出男
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抄録

 都市内に存在する緑地には,都市のヒートアイランドを緩和する効果が期待されている.緑地の周辺市街地へ冷却効果をもたらす緑地内冷気の流出に関しては,一般風による移流と,静穏な夜間に緑地内の冷気が重力流の作用により周囲へと流出する「にじみ出し現象」がある.にじみ出し現象に関しては,新宿御苑での一連の観測(たとえば,成田ほか 2004)などによって実測例があるものの,にじみ出し現象の詳細を直接的かつ明確にとらえた事例報告は多くない(成田・菅原,2011).国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区白金台)では,夏季を中心としてにじみ出し現象の詳細を明らかにするための気象観測を行っている.自然教育園は樹林の密な緑地であり,園内外とも地形の起伏が大きいことが特徴である.
 2011年夏季の観測結果では,晴天日(気象庁大手町のデータから12日を抽出)を平均したクールアイランド強度(緑地内外の気温差)は日中に大きく,夜間は約1.5℃,日中は約3℃であった.冷気のにじみ出し現象がみられた夜の気温分布をみると,地形的に緑地内から市街地へと下っていく方向の北側市街地では時間の経過とともに緑地から数十 mの地点において緑地内と同程度にまで気温が低下していた.さらに,夜遅くなるにつれて緑地に近い市街地の地点ほど緑地内との気温差が小さくなり,気温断面分布は緑地に近づくほど低下するという形状になっていたことから,緑地からのにじみ出しの冷気は緑地から200 m以上にわたって市街地の気温を低下させたと思われた.一方,反対側の南側市街地では緑地の近くで非常に低温となる現象はみられなかったことから,地形の違いや交通量の多い道路の存在によって,にじみ出し現象による緑地からの冷気の到達範囲が変わってくることが考えられた。また同夜の気温鉛直分布から,日没直後は緑地内の標高の低い場所や地表面付近で冷気が溜まり,その後樹冠より下で冷気が厚みを増し,最終的には冷気の厚さが樹冠付近(高さ16 m程度)まで達していたことが明らかになった.

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