日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 817
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発表要旨
鉄道施設跡地の復原における地籍資料の活用
岐阜県可児市・旧東濃鉄道を例に
*林 泰正
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抄録
報告の背景と目的
地理学,特に歴史地理学においては,古くから地籍図や土地台帳といった地籍資料を活用し,地域のかつての景観の復原や,現在は存在しない諸施設の位置特定およびその規模の把握などを行なってきた.本報告は,そうした地籍資料活用の可能性を探るべく,岐阜県可児市一帯における地籍資料の残存状況を明らかにするとともに,それらを活用することによって,廃線となった鉄道施設跡地の復原を試みた結果および課題とを提示するものである.対象とした鉄道施設とは,1912(大正元)年に出願され1926(大正15)年に一部国有化を経て解散した旧東濃鉄道のうち,現可児市の市街地を横断していた路線および鉄道駅部分である.
旧土地台帳の活用
研究対象地域の地籍資料は,岐阜地方法務局美濃加茂支局で保管されている.なお,同支局においては,その材質から,公図は「和紙」,電子化される前の実測地籍図(14条地図)は「マイラー」と呼ばれ,良好な状態で保管されていた.これをもとにPCの画像処理ソフト上で,都市計画図をベースマップとし,そこに同縮尺同方位となるように補正した各字の実測地籍図をレイヤー化して,次々と重ねていった.そして最終的には,各字の実測地籍図を結合して画像ファイル化したほか,実測地籍図の整備以前に合筆が行われて失われた地筆線については,公図を参照しながら復原した.こうしてデジタライズし,復原された地籍図データに,旧土地台帳上にて「旧東濃鉄道所有地」「鉄道施設地目」となっていた地筆の情報をおとすと,旧東濃鉄道の鉄道施設跡地の位置と規模とが詳細に浮かび上がった(図1).
旧土地台帳の限界
以上のように,旧東濃鉄道については,その成立が地籍資料の整備後である大正期であったことと,この地域においては実測地籍図を含めた地籍資料の保存状態が良好であったことに助けられ,地籍資料を用いた鉄道施設跡地の復原などが可能であった.しかしながら,旧土地台帳が失われている地域はもちろんのこと,公図しか存在していない地域や,実測地籍図の整備前に耕地整理などが行われていてかつての地筆線が不明となっている場合には,今回のような詳細な復原は難しいと想定された.また,今回の復原では,のちに国有化と払い下げを経験した鉄道施設の跡地については,一部,旧土地台帳での処理が混乱しているような地筆が散見された.地税管理を主たる目的としていた旧土地台帳の性格上,いったん国有地となってしまうと,その記載は厳密なものではなくなってしまうためと考えられる.よって,国有化されのちに廃線となったような鉄道施設の跡地について,地籍資料を用いて分析する際には,特別の注意が必要であることも指摘された.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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