日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 509
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発表要旨
中国における地方政府主導による都市形成
内モンゴル自治区オルドス市の事例
*殷 冠文
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抄録
1.はじめに
  改革開放以降,中国の都市は急成長を遂げてきた.特に,1990年代の中央政府による分権化政策によって,地方政府主導による都市形成が中国各地で見られるようになった.各地方政府は大規模な都市計画,開発区建設,新区の開発,行政区画の調整などの諸手段を通じて,都市的用地の拡大を推進した.また,企業誘致,投融資政策を通じて都市経済発展の方向性を決定づけた.本研究はオルドス市を事例として,地方政府が都市形成において果たす主導的な役割とメカニズムを検討する.
2.オルドス市の経済発展
 オルドス市は中国内モンゴル自治区西南部に位置する.総面積は8.7万km2で,人口は149万である(2009年).石炭埋蔵量は171億tで,中国の約1/7を占めている.1994年以降,オルドスは石炭の大規模な開発を開始した.2000年以降,石炭価格高騰によって,急速な経済成長がもたらされた.
3.新区の建設および市政府の役割
(1)建設の決定
 2000年代に入り,急速な経済成長が始まったため,市政府は将来の経済発展の空間を早めに用意し,都市空間を拡大する計画を立てた.2003年,カンバシ新区の建設を決定し,市の文化,政治,金融,教育・研究の中心であり,技術産業拠点としての建設を開始した.<BR>
(2)建設の過程
 新区の建設において,市政府は主導的な役割を果たした.①インフラの建設資金の大部分は市政府から出たものである.市政府の主導によって,図書館,博物館,劇場,広場などの壮大な建造物が建設された.②企業誘致のため,企業に対して税制を優遇し,補助金などを奨励するとともに,炭鉱を配分するという政策を行った.③人口移動を促進するため,市政府は市役所,公共機関,学校などを新区に移動させた.さらに,新区の住民に無料バスを提供した.④市政府は不動産業者との協力を通して,住宅開発を進めた.
4.カンバシ新区への考察
 地方政府の主導の下で,新区の人口は3万人に増加したが,まだ計画人口には達していない.住宅は良く売れるが入居率は低い.また,新区に立地した企業の概要を見ると,コンクリートや建築材料を生産する企業が大きな割合を占める一方,不動産,建設業と金融業関係の企業も多い.したがって,現在の新区は,期待された文化,教育・研究,金融,技術産業の拠点とは大きな差があることがわかる.
5.おわりに
 オルドスの事例によって,地方政府がインフラ建設を主導し,住民の新区への移動を促進するとともに,企業の誘致と不動産開発を促進したことが明らかとなった.このように,石炭産業の発展によって大量な資金が生じ,新区はその資金を固定化させる場所として,地方政府の主導によって建設された.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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