抄録
愛知県西部に位置する海上の森におけるナラ枯れ被害の実態とそれが炭素固定機能に及ぼす影響について考察するため、2010年10月と2011年10月に現地調査を行った。調査は、標高220~230mに位置する傾斜約30度の北向き斜面に設置した20m×20mの固定プロットで毎木調査を行うと共に、地形条件の異なる3カ所で被害状況についての補足調査を行った。2010年の調査では、固定プロット内に27種、336本の樹木が確認された(枯死木含む)。そのうち、常緑広葉樹が179本、落葉広葉樹は124本と本数では常緑樹が上回るものの、胸高断面積では落葉樹が常緑樹の約3倍を占める。最大胸高断面積を有する樹種はコナラで(平均直径17cm)、25本中24本にキクイムシの穿孔痕が確認され、被害木の62.5%が枯死に至っていた。2010年の全樹木(コナラ枯死木を含む)の合計バイオマスは149.3t/ha(地上部118.5t/ha、地下部30.8t/ha)で、うち落葉樹111.8t/ha、常緑樹27.8t/ha、針葉樹9.7t/haと算出された。コナラのバイオマスは91.1t/haで、全バイオマスの61%を占める。2010年のコナラ枯死木のバイオマスは47.9t/haで、2011年にはさらに20.8t/haが加わったことから、ナラ枯れにより全樹木バイオマスの約46%がネクロマスになった計算になる。麓部斜面では、コナラ(平均直径26cm)の90%、アベマキ(平均直径28cm)の86%に穿孔被害が確認され、被害木に対する枯死率は、それぞれ42%、39%であった。頂部平坦面ではコナラ(平均直径25cm)とアベマキ(平均直径31cm)すべてに穿孔被害が確認され、うち枯死率は33%であった。これらの値を固定プロットの値と比較すると、被害木中の枯死率は緩傾斜地で低い傾向がみられる。これは、地形条件に伴う土壌水分が枯死率に影響を与えている可能性を示唆している。頂部斜面ではコナラのみがみられ(平均直径12cm)、うち直径15cm以上の6本すべてに穿孔痕が認められたのに対し、直径10-15cmで39%、5-10cmで14%と小径木ほど穿孔被害率が低下する傾向が認められた。