日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 110
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発表要旨
堤防を越えた津波の動態と人びとの避難行動
宮古市役所から撮影した「2011年3月11日の津波映像」の解析
*岩船 昌起
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キーワード: 津波, 動態, 避難行動, 堤防, 映像
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抄録

【はじめに】本研究では,2011年3月11日に撮影された「津波映像」の解析に基づき,市街地に流入した津波の動態を明らかにし,人びとの避難行動とかかわる時空間スケールでの避難環境を考察する。【対象と地域】「津波映像」は,岩手県宮古市市庁舎5階から市職員によって2011年3月11日15時17分から26分19秒間撮影された。撮影範囲である市役所東側の閉伊川河口周辺市街地では,地盤高約3.5mの堤防が閉伊川や宮古湾との境界に設置されている。なお,「津波映像」は,港湾空港技術研究所のGPS波浪計データ等も参考にすると,第一波をほぼ捉えたものであり,引き波から最大波を経て第二波前の引き波に至るまでの変化が記録されている。【方法】映像の解析には,0.50秒間隔での静止画を用いた。津波後に残った建物の窓枠の長さや高さ等を測量した値を参考に,浸水深を10㎝単位で計測し,津波の白泡や漂流物の移動距離から流速を求めた。【結果と考察】堤防を越流した津波の特性は,以下の通りである。①津波の先端が越流後約11秒で50m進んだ。これは大半の人びとの全力での走りよりも速い。②越流後約12秒で,流速毎秒約4mで20㎝深の流れが車を流し始めた。人間がこの場に居れば,車が流される前に足を払われて転倒すると考えられる。③堤防に沿う約10mの地帯では激しい跳水(約2m高)が生じた。ここでは人間は呼吸を継続できないだろう。④28秒後に全域が浸水し,車等の漂流物をともなった流れが車道や駐車場で顕著になった。歩行が不可能な環境がさらに強化された。⑤越流から約1分後に浸水深が1mに達した。浮力との関係からほとんどの人間が流される水環境に変化した。⑤越流後2分弱から流速が毎秒2m弱となる。⑥越流後約4分で流速毎秒約3mとなり浸水深が300cmを超える。この時点で家屋の多くが大破・流失した。⑦最大浸水深記録後に引き波に転じて流速毎秒-2m弱の流れが約1分続いた。⑧決壊しない堤防によって最大浸水深記録後に堤内で滞水状態が15分強続いた。この間泳いで避難した人もいた。【おわりに】本研究は,「堤防を越えた津波」の一つの解析事例であるものの,「避難行動」と直結する基本的な津波の動態を把握できた。浸水に対応した避難体制の再構築やまちづくりの貴重な基礎資料となるだけでなく,防災教育の教材とのかかわりからも極めて重要である。

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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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