日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 804
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発表要旨
場所論と場所の生成
他者化を越えた地誌のための覚書
*熊谷 圭知
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抄録

本報告の目的は、場所をめぐる理論の再構築であると同時に、個別の場所の記述、すなわち地誌の方法論である。理論と記述、あるいは法則定立的研究と個性記述的研究は、対立するものとして捉えられがちである。しかし本論が示そうとするのは、とりわけ地理学という方法においては、基本的に両者が重なり合うものであるということだ。 私の理解する地理学とは、究極のところ場所の生成とその理解をめぐる研究である。場所とは、常に個別具体的なものでしかない。しかし、場所の生成の中には、同時に常に共通性あるいは相同性、言い換えれば普遍が存在する。クラインビット村という、一つの村の物語は、パプアニューギニア、ブラックウォーターという地域の文脈を離れては存在しえない。しかしクラインビット村という場所の生成の物語は、空間を越えた他の場所の生成の物語と共通性・相同性をもっている。 この報告で主張したいのは、クラインビットという遠く離れた世界の人々の場所と場所の生成が、わたしたちの日常の場所と場所の生成と、差異だけでなく様々な共通性・相同性を持っているということである。遠く離れた場所と人々の物語が描かれるとき、それはしばしば他所の面白おかしい――しかし自分たちとは無縁な――情景や出来事として了解され、消費されてしまいがちである。異なる場所と人々を、自らとは異なる(縁を持たない)変わらぬ他者としてまなざすこと、それが「他者化」である。他者化を促すのではなく、聞き手や読み手にその地理的想像力を喚起し、相互理解の回路を提供すること、その場所や人々とつながりたいという欲求を与えること、それが地誌の仕事であると考える。

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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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