日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 317
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発表要旨
世界遺産登録による観光と住民意識
平泉町「歴史景観地区」を事例として
*篠崎 遼太郎
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抄録
 平泉町では,2011年6月の世界遺産登録後に観光客は増加したが,実際に生活をする住民は世界遺産登録や増える観光客についてどのように考えているかを調査した.
世界遺産登録に対して「期待を持っている」と回答した人は全体で約84%に上った一方で,不安を持っている人も6割に上った.その中でも特にゴミ問題など,これまでの先行登録地域でも問題になっていたことが懸念として示され,両者については,世界遺産登録後に問題が起こっている.
観光客に対する意識については, 仮に短時間であったとしても,「観光客が増えることは嬉しい」と考える人は全体の約46%,「世界遺産だけでなく,平泉町全体を観光して行ってほしい」と回答した人が全体の約38%,そして「観光客の増減については,気にしていない」という回答が全体の約11%であった.この結果より,観光客増加に対して平泉の住民は概ね好意的であると言えるが,通過型観光地の平泉において,長時間滞在し,平泉のことを知ってもらいたいと考える住民もいることが明らかとなった.
次に,全体の傾向をもとに,属性分析を試みた「期待を持つ人」における差異では,30代から50代にかけては世界遺産登録後に地元の遺産に対する意識が向上しており,加えて短時間の滞在でも,観光客の増加を歓迎していることが判明した.一方,60代以降になると,世界遺産登録により地元の遺産への意識が変わることなく,これまで通り大切にしていきたいと考える人が多い.また,観光客に対しても,中尊寺など世界遺産だけでなく,平泉町全体を観光していって欲しいと考える人が多いことが明らかとなった.
そして, サンプル数の多かった「第1次産業と第2次産業」,「小売業・卸売業とサービス業」,「公務業」と「無職」の4つの属性の分析を行った.そうすると,全ての属性で9割の人が期待を持っていることが明らかとなった.一方で,不安面においては,公務業において約9割の人が不安を持っていることが判明した.公務業の人々が期待と同時に不安を持つ理由は,世界遺産登録を推進してきたと同時に,観光客の受け入れや,路上駐車の問題などに対処する必要があるからである.また,「その他」の分析においては,仕事を引退した無職の人々が多く,行政の施策に批判的であり,現在の平泉の状況を危惧していることが判明した.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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