日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 609
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発表要旨
鹿児島湾沿岸における最終融氷期以降の海面変化と海岸環境変化
*森脇 広杉原 重夫松島 義章増淵 和夫弦巻 賢介大平 明夫
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抄録
氷床と海と陸上から得られる気候変化と関わった古環境記録の高精度対比・統合が注目されている(森脇,2011).ここでは,こうした視点を背景として,主に鹿児島湾北岸と東岸において得られたボーリング資・試料,貝化石,14C年代,さらにテフラの同定などの分析資料を加えて,確度と精度をより高めた最終融氷期以降の海面変化・海岸環境変化を求めた.この発表では,次の緒点を中心に述べる.①桜島・薩摩テフラ(Sz-S, 12,800 cal BP)の同定による最終融氷期の海面変化のイベントと海底コアの酸素同位体変化から知られる気候イベントとの対比,さらにこれに基づく海面変化と氷床コアの気候イベントとの対比.②海面変化に伴う鹿児島湾の海岸境変化.  鹿児島湾沿岸は,水深100m以上の海底が現在の海岸に迫り,急深な海底地形からなる.背後の流域は入戸火砕流堆積物を中心とする未固結の堆積物が広く分布し,多量の堆積物供給を可能にしている.このため鹿児島湾沿岸の低地は堆積速度が速く,海岸が最終氷期最大海面低下期の汀線により近い位置にまで進出しているので,陸上のボーリングから最終融氷期初期の海面をとらえることができる. 結果:国分平野で得られた海面変化は,約15,000 cal BP - 約13,000 cal BP(Sz-S降下頃)が急上昇,約13,000 cal BP - 約11,500 cal BPは緩慢な上昇,約11,500 cal BP - 約7,500 cal BP(鬼界アカホヤ火山灰,K-Ah; 7,300 cal BPの降下頃)が急上昇,約7,500年前以降は安定を示す.Sz-S(12,800 cal BP)の時の海面は現海面下約45~50mにある.鹿児島湾東岸でのボーリングコアでは,海面下24mに乾陸上に降下堆積したSz-Sが認められ(森脇ほか, 2011),これと整合する.グリーンランド氷床コアからの気候イベント(NGRIP, GICC05)に対比できる東シナ海の海底コア(MD982195)酸素同位体変化では,亜間氷期GI-1aイベントと亜氷期GS-1イベントの境界付近にSz-Sは見いだされ(Moriwaki et al., 2011),鹿児島湾沿岸での海面の急上昇と緩慢な上昇の境界付近にあるSz-Sの層位と整合する.湾奥の国分平野下で認めれれた基底礫層は,主要河川である天降川の河口が最大海面低下時に現海面下90m付近にあったことを示す.鹿児島湾口の最大水深が約95mであることからみて,最大海面低下時には鹿児島湾は湖であった可能性が高い.海成堆積物とSz-Sの層位関係から見て,鹿児島湾奥に海進が及んだ時期は,GI-1イベントの急激な海面上昇の時期‐meltwater pulse IA(Yokoyama et al., 2007)‐に対応する.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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