日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 616
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発表要旨
地球温暖化によるケニア山の氷河縮小と植生遷移
*水野 一晴
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抄録

1.ケニア山の氷河縮小と植生遷移
ケニア山のティンダル氷河の後退速度は、1958-1996年には約3m/年、1997-2002年は約10m/年、2002-2006年は約15m/年、2006-2011年は約8m/年であった。その氷河の後を追うように、先駆的植物種4種は、それぞれの植物分布の最前線を氷河の後退速度と類似する速度で斜面上方に拡大させている。特に、氷河が溶けた場所に最初に生育できる第一の先駆種Senecio keniophytumは、1996年に氷河末端に接して設置した方形区(幅80mx長さ20m)での個体数と植被率がともに、15年後の2011年には大幅に増加していた。また、1996年には方形区内の生育種は1種のみであったが、2011年には4種に増えていた。ケニア山山麓(高度1890m地点)の気温は1963年から2010年までの47年間で2℃以上上昇しているが、50年間の顕著な降水量の減少はなく、ケニア山の氷河縮小は主に温暖化が原因と考えられる。
 2.温暖化と植生遷移
2006年までティンダル・ターン(池)の北端より斜面上方には生育していなかったムギワラギクの仲間Helichrysum citrispinumが、2009年にはティンダル・ターン北端より上方の、ラテラルモレーン上に32株が分布していた。これは、近年の氷河後退にともなう植物分布の前進ではなく、気温上昇による植物分布の高標高への拡大と推定される。Helichrysum citrispinumは、通常暖かくなる12-2月に開花する植物であるが、2009年には8月に開花していた。これは2009年の3-9月の気温が平年より1℃以上高かったため、一気に生育範囲が斜面上方に広がり、2009年の4-8月の気温が、平年の12月並の暖かい気温に達したため、8月に開花したものと推定される。  また、大型の半木本性ロゼット型植物であるジャイアント・セネシオ(Senecio keniodendron)は1958-1997年には分布が斜面上方に拡大するという傾向は見られなかったが、1997-2011年には斜面上方に拡大している。この種は氷河後退が直接遷移に関係しているとは考えられないが、先駆種の斜面上方への拡大による土壌条件の改善と温暖化がジャイアント・セネシオの生育環境を斜面上方に拡大させていると考えられる。

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