日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1211
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発表要旨
高山植物は繁茂する?!
大雪山における高山の環境と植生のモニタリングから
*助野 実樹郎岩花 剛
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抄録
1. はじめに
 高山植生は気候変化に対する脆弱性が高いと予測されており、気候変化による高山植生の変化を議論するためにバックグラウンドデータが必要不可欠である。一方、温帯高山では山岳永久凍土が高山植物の分布に関与しており、凍土層の動態をまじえて高山の環境や植生の変化をモニタリングすることが重要である。演者らは、大雪山北部の小泉岳とその周辺において2001年から高山植生のモニタリング、2005年から高山環境の観測を始めた。
2. 調査・研究方法
 相観的な植生の差異を考慮して、小泉岳山頂部の高山風衝地に2m×2m、高山雪田に1mby4mおよび1m×2m、ハイマツ分布地に3m×3mの永久方形区を複数設置し、方形区調査を開始した。各方形区は1m×1mの小方形区に区分し、1%きざみで全植被率、植生高、出現種の被度および高さ、生育状況などを記録した。調査は隔年または4年ごとに、8月下旬から9月初旬に実施した。また高山環境の観測は小泉岳周辺の五色岳でおこなった。
3. 結果と考察
 モニタリングの開始以降、高山風衝地やハイマツ分布地の方形区では全植被率が増加し、出現した植物の被度合計値も上昇した。高山雪田では被度合計値のみが上昇した。これらの結果は小泉岳の高山植物が近年繁茂していることを示唆する。高山風衝地では2007~11年に植被率や被度合計値が著しく増大し、多くの植物の相対優占度も同調していた。当該期間における高山環境の変化を把握したところ2010~11年は高温・多雨の年であり、夏季の降水量が例外的に多く、活動層の土壌水分も上昇していたことがわかった。2007~11年、高山風衝地で著しく増加した種はヒメイワタデ、エゾタカネツメクサ、クロマメノキ、タカネクロスゲ、ミヤマクロスゲ、蘚苔類であった。本来タカネクロスゲは湿原の植物であり、小泉岳では湧水地に局所的に分布する。そのため2010~11年の高温・多雨な気象条件を反映して増加した可能性もある。一方でミヤマクロスゲはモニタリング開始当初から著しく増加し、必ずしもこのような気象条件を反映していないと考えられた。
 以上のことから例外的な高温・多雨の気象条件は高山植物の繁茂に関与したと考えられる。しかし環境変化への応答は植物種間で一様ではなく、今後は方形区設置地点の地形的差異の他、種間競争にも配慮して植生変化の要因を検討する必要がある。
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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