日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 301
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発表要旨
長野県峰の原高原におけるペンション経営の変容
*鈴木 富之
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抄録
1970年代以降,スキー観光地の拡大により,ペンションの集積がみられた.ペンションの多くは,都市からの移住者(脱サラ組)が新たに開業したものであり,経営者の趣味を活かした家族経営がなされてきた.バブル期には,スキー人口が増加したため,ペンションは首都圏からの多くのスキーヤーを受け入れてきた.しかしながら,バブル崩壊以降,スキー人口の減少により,ペンションでは宿泊客の減少が顕著になり,新たな経営戦略を試みる例もみられる.本研究では,長野県峰の原高原におけるペンションの変容に関する諸特徴を明らかにし,その要因について考察を加える.1960年代以前,峰の原高原は入会林野であった.しかしながら,その後,入会林野はほとんど利用されなくなった.そこで,長野県企業局は1971年から「菅平方式」による観光開発を開始した.具体的には,ペンションの分譲,スキー場やゴルフ場,テニスコートなどの開発が行われた.その結果,峰の原高原におけるペンションの宿泊客数は,スキー人口の増加がみられたバブル期まで増加し続けた.ところが,バブル崩壊以降,峰の原高原のペンションでは,宿泊客の減少が顕著になった.このような状況下,峰の原高原のペンションでは,集客の安定化を図るために,2000年代から陸上競技団体の受け入れが行われるようになった. 現在,峰の原高原ではペンション経営の分化がみられている.まず,高齢者が経営するペンションは,インターネットを用いた新規顧客の獲得に積極的ではなく,リピーターの受け入れを中心とした経営を行っている.高齢者が経営するペンションでは,これらの借入金を完済しているケースが多い.また,子供世代が独立し,かつ年金を受給している.そのため,比較的経済的な余裕があると考えられる.一方,非高齢者が経営するペンションでは,陸上競技団体の受け入れや,インターネットを利用した新規顧客の獲得に積極的である.これらのペンションのなかには,開業時に借用した借入金を完済していないものも多い.また,子ども世代が就学しているケースも多くみられる.さらに,安定した収入が見込める副業が少ない.このように,不安定な経済状況により,新たな経営戦略の導入にも積極的である.峰の原高原におけるペンション経営の分化は,スキー人口の減少,中古物件の存在による新たな経営者の流入,各ペンションにおける経済状況や労働力構成などと密接に関連している.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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