日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1118
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発表要旨
荒川中流部における砂州堆積物の発達とその要因
*町田 尚久
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抄録
1.はじめに
 人為介入を受けた多くの河川では,1960年頃から河床低下が問題になってきた.その要因は,砂利採取やダムなどがあげられる.埼玉県を流れる荒川も同様に河床低下が見られる.しかし中流部の熊谷市付近では,町田ほか(2009)によると,少なくとも1974年から2002年の間に河床上昇が確認され,これには扇状地という地形の影響も考えられている.そこで,町田ほか(2009)をもとに熊谷大橋付近(河口から79km付近)の砂州を対象として堆積状況から発達過程を明らかにし,河床上昇の要因を解明することを試みた.なお対象は,熊谷扇状地の扇央部に位置する熊谷大橋付近の砂州である.現地調査は,2010年に実施したデータを利用する.
2.河床変動と河道幅
 河床縦断図は,荒川上流河川事務所所有の資料から作成した.その結果,1954年までは縦断形の起伏が少なく安定していると考えられるが,1964年に急激に起伏があらわれ,河床低下が進んだことがわかる.また明戸サイフォン直下(河口から80~83km付近)では,1964~2002年まで河床低下が続いたが,熊谷大橋から新久下橋付近(71~80km付近)では,1974~2002年に河床上昇が発生している.河道幅は,明戸サイフォン(82km付近)から下流に向けて広がるが,熊谷市久下(新久下橋付近)で急速に狭くなる.久下から和田吉野川合流点付近までは,1629年に開削された人工河道区間なので河道幅が減少していると考えられる.
3.砂州の発達
 1960年,74年,80年,86年,90年,98年,2002年の空中写真から1986年以降に熊谷大橋付近で砂州の発達が見られるようになり,拡大と縮小を繰り返しながら左岸に固定化した.
4.砂州の堆積物
 調査場所は,熊谷大橋真下(河口から79km付近)のloc.2[a,b] (同一路頭面から2箇所)と,その上流側のloc.1で,その間は約50mである.
 loc.2bの砂州を作る堆積物を層相から7つの層準(第Ⅰ~第Ⅶ層)に分けた.それを基準に対比すると,loc.1では第Ⅳ層~第Ⅶ層,loc.2aでは第Ⅱ層~第Ⅶ層が,それぞれ認められた.層相からloc.1とloc.2[a,b]の双方に,15cm内外の大礫を含む第Ⅳ層が認められ,その堆積物の中および,その堆積構造に対応するように人工物が取り込まれている.その人工物は,コンクリート片・ゴム片である.一方でloc.1付近からは,コンクリートブロックの転石がみられた.その他の層相は,ほぼ水平に堆積した礫と砂の互層となっている.また,loc.2aの第Ⅲ層の最下部の砂層から株式会社サクラクレパス製「ペンタッチサクラカラーインキ細字用(以降:ペン)」(製造1970~73年)を発見した.
5.堆積過程と堆積環境
 第Ⅲ層は,発見されたペンから少なくとも1970年以降の堆積と認められ,第Ⅰ層・第Ⅱ層はそれより以前に,第Ⅲ層より上部は1970年以降に堆積したと推定でき,空中写真から土砂の移動が活発であったと判断できる.また土砂を運搬する洪水は,日本河川協会(2007)に掲載されている2000m3/s以上の流量(1972,73,89,99,2001年)を対象にした.それにより第Ⅳ層は,1982・83年に発生した3回の洪水と対応した堆積と判断できる.第Ⅴ層より上部は,1973~97年(10回)と渇水が発生していることから,対象区間全体で堆積が進んだと推察でき,砂州の発達状況から拡大に伴う堆積と解釈できる.第Ⅵ層は,1983年以降,3回の洪水(1983,99,2001年)と大礫を含む2つの層(厚さ10~20cm)が対応している.また表層に近い第Ⅶ層は,植生の成長状況から,少なくとも1983年から現在までの洪水によって堆積したと考えられる.
 今回の調査から熊谷扇状地の堆積区間では,人為介入として掃流力や掃流土砂へ直接的に影響を与える砂利採取や瀬替えによる流路の開削だけでなく,河床低下を通してもたらされた間接的に影響を与える明戸サイフォン直下の洗掘も熊谷大橋~新久下橋付近(71~80km付近)に堆積をもたらした.
 多様な人為介入を受けた河川地形の形成は,Gilbert(1877)の動的平衡(Dynamic equilibrium)のシステム論的解釈が妥当であると考えられ,人為介入が「Input」として河川作用に影響与え,その応答として「Output」として新たな地形形成をもたらすと解釈できる.人為介入を受けた河川では,掃流力,掃流土砂が影響を受け,河床高や堆積・侵食区間や地形形成の規模に変化を与えた結果,新たな地形形成することが明らかとなった.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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