抄録
1.はじめに いわゆる「参加型森林経営Community Based Forest Management(CBFM)」は、1990年代以降、世界各地でそれまでの森林管理に「代わる」森林管理の「方法」として注目され、急速に広まっていった。インドにおいても、1980年代の「社会林業Social Forestry」の実績と反省を踏まえて、1990年代から「共同森林経営Joint Forest Management(JFM)」始まり、地域差はあるものの、導入から10年を経て、住民と森林局との利益配分についての議論が本格化している。 森林の側からみた場合、森林減退(Deforestation)とそれに対する林野化(Afforestation)という構図は相補っているようであるが、後者の方法もしくは担い手として登場してくる「住民」については不明なところが多い。確かに、村落森林委員会(Village Forest Committee)という「住民」組織はある。ただ、その構成や村落社会の中での位置づけは問題が山積している。同時に、村落間の、しかも特定の地域的文脈の中での村落の「多様性」に由来する問題も顕在化しつつある。 2.研究の目的と方法 以上を踏まえ、本報告では、森林減退後「新たに」入植した住民による集落によって形成された「地域」におけるJFMの可能性について、カルナータカ州マイソール県西部を対象として、検討したい。 その際、1)森林減退のプロセスを詳細に後付けすること、2)森林局による森林政策の変遷を整理すること、3)各集落の略歴を整理すること、以上三点を押さえた上で、集落「間」の共同の可能性についての検討を重視する。 3.検討結果 1) 同地域における森林減退のプロセスは、人口増や都市化といった現象によって徐々に進んだわけではなく、森林政策や社会福祉政策などによる入植活動が引き金になっている。 2) 森林政策は、プランテーションの増加やダム建設などについては黙認する一方、野生動物保護などの森林関連政策については積極的に関与していった。 3) 同地域に居住する住民は非常に多様である。特に集団間の多様性が顕著である。これは入植時に目的集団として構成されていたためであり、そのことが「地域」における共同の可能性を減じている、と言うよりも、没交渉的な課題としている。