日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 219
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発表要旨
地質の分布とカバノキ属樹木4種の生育地の関係
*小川 滋之
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抄録
研究の背景と目的:カバノキ属樹木は,街路樹や庭木などの園芸品種や建築資材,民芸品の材料として古くから人々の間で親しまれてきた.しかし,二次林要素や急峻な尾根や露岩地の林分要素とみられており,生育地の分布を規定する要因には不明な点が多い.本報告では,日本列島に分布するカバノキ属樹木の中でも,林分形態や種子特性,生育地タイプから代表的な4種(シラカンバBetula platyphylla ver. japonica,ヤエガワカンバB. davurica,ミズメB. grossa,オノオレカンバB. schmidtii)を選定し,生育地の分布要因を検討した. 調査地と方法:調査地は,カバノキ属樹木が多くみられる外秩父山地(埼玉県)を選定した.山地北部には三波川変成岩類(斜線の上端),山地南部では秩父帯中古生層が分布している(斜線の下端)(図1).調査は,カバノキ属樹木の生育地の分布調査と立地環境調査を行った.  結果と考察:カバノキ属樹木の生育地の分布は,3タイプに分けられた(図1).シラカンバとヤエガワカンバの生育地は,山地北部の三波川変成岩類地域,その中でも斜面上部の緩斜面に多かった.シラカンバは,秩父中古生層地域でもみられたが,生育地の分布頻度は低かった.一方,ミズメの生育地,オノオレカンバの生育地は秩父中古生層地域に集中していた.ミズメの生育地は,礫質土に多かった点ではシラカンバとヤエガワカンバに近似するが,斜面下部の急斜面でも多かった点では異なる.オノオレカンバの生育地は,他3種と共通点が少なく,ほとんどが尾根の露岩上に分布していた.このように地質や地形の特徴から,カバノキ属樹木の生育地は分けられた. この2つの地質特性としては,三波川変成岩類は地すべりが頻発することにより緩斜面を形成する特性が報告されており,秩父中古生層は急峻な尾根や急斜面を形成する特性が報告されている.カバノキ属樹木の生育地が形成される立地環境についても,既存研究で述べられている.シラカンバとヤエガワカンバは地すべりによる開放地の出現が,ミズメは開放地のほかに小規模な林冠ギャップの出現が,オノオレカンバは急峻な尾根の疎林の出現が関わることが報告されている. 以上のことから,地質分布によってカバノキ属樹木の分布が規定される背景には,地質特性の違いにより規定される地形形成が関わると結論した.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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