抄録
本研究は大規模な計測・解析システムを必要とはせずに、人の持つ感覚的な計測手法(感性的な計測法)を基にして身近な気候環境の様子を定量化し、その情報をもとに都市の微小気候環境を可視化し、さらにそのモデル化を試みることである。自然や都市の微気候環境(主に気温環境)の変化を広葉樹の紅葉(黄葉)や落葉(指標植物)などの進行状態を観測し、その地域の気候環境の様子を可視化することで、その地域の気候環境の変化を分かりやすくとらえることができる。さらに数理的な黄葉の進行モデルを構築することで他の微気候地域との関連も調べることが可能になると考えられる。 具体的には指標植物としては身近なイチョウの葉に注目した。イチョウは街路樹として国内で広く植栽されており、街道沿いの気候環境をよく反映していると考えられる。観測場所としては、地形的要因や人工構築物による人為的な要因及びこの両者の要因が混在する環境を持ち合わせた東京の郊外に広がる多摩ニュータウン通り(多摩境~永山橋までの12km)を対象とした。この区域を21の区間(微気候区)に分けて観測を行った。この地域における黄葉の始まりは9月下旬であることが分かっているため、この頃を観測の基準日として約70日間以上かけて黄葉の進行の様子を観察する。観測方法としては樹一本の平均的な黄葉の程度を5段階の数値で分類し黄葉度として記録し後にグラフとして可視化を行っている。2010年の観測データをもとにして、21区間の中から代表的なものを選びモデル化の検討を行った。黄葉度の進行過程を表現するモデル関数としては累積分布関数のひとつとしてよく知られているロジスティック関数を用い、数理モデルとしての妥当性の検討を行った。最小二乗法による推定結果からロジスティック関数は観測値とよく適合することが分かった。また、観測年による気温変動や地域による気候環境の違いがあってもよく実測に適合している。提案した数理モデルの有効性が示され、微気候環境の違いをよく再現していることがわかった。