日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0105
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発表要旨
放射能汚染と地理学
汚染の分布をいかに地図化するか
*近藤 昭彦小林 達明鈴木 弘行
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抄録
2011年3月11日は日本にとって忘れられない日となった。東電福島第一原発の一連の事故により大量の放射性物質が環境中に放出され、阿武隈の山村で人の暮らしが突然奪われてしまった。人と自然の関係学である地理学の立場から、福島に通いつつ地理学の貢献のあり方について考え続けてきた。
福島県を含む広域を対象として空間線量率、沈着量等の地図化が試みられている(文科省HP)。しかし、地域はそれが狭くても個性を持つ。“暮らしスケール”の汚染の実態を認識し、対策を進めるためには地域の個性を理解する地理学の知識、経験が力を発揮すると考えられる。
現在公開されている空間線量率、沈着量等のマップは自動車による走行サーベイ、および航空機サーベイによって作成されている。走行サーベイでは道路上の測定しかできない。航空機サーベイはフットプリントの範囲の平均を測定しているが、汚染状況は3月の沈着時の不均一性に加え、その後の再配分により複雑になっている(近藤ほか、2011abc)。
放射能汚染地域の今後については机上で考えるのではなく、まず地域と話し合い“問題の解決を共有”する枠組みを作る必要がある。その中で研究者の役割の部分を果たしていく態度が必要であろう。
山村の暮らしは田畑、住居、裏山の水循環・物質循環を取り込んで行われている。暮らしの復旧を目指した除染は住居から一定距離のバッファー領域では不十分で、住居を含む小流域スケールの視点で考える必要がある。そのために地理学の知識、経験が役に立つはずである。
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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