抄録
一つの地域が、単変量ないし多変量属性の与えられた空間単位の集合からなるとする。このとき、
1) どの空間単位のグループ(以下、部分地域)も空間的に連坦している
2) 一つの部分地域を構成する空間単位はなるべく似通った属性値を持ち、部分地域内部は最大限均質となる
という二つの条件(以下、これらの条件をそれぞれ連坦性条件、均質性条件と呼ぶ)を理想的には満たすものとして、空間単位の集合をグループに分ける試みは地域区分(regionalization)と呼ばれる。
多くの場面での地域区分を行うニーズから、地理学とその周辺分野では、いくつかの地域区分方法が提案されてきた。これまでの先行研究を見ると、連坦性条件を必ず満たす地域区分方法の中では、Full-Order CLK法と呼ばれる方法が、均質性条件に最も適うものだと目される。ただし、この方法によって必ずしも大局的に最適な区分に達する保証はなく、これを上回る地域区分方法は存在しうる。
空間単位の属性が単変量であるとき、(部分地域の均質性を偏差平方和によって評価するならば)ある区分が均質性条件の点で大局的最適となるための必要条件が存在し、等値線に沿った区分はこの必要条件を満たすことは知られている。このことから、空間単位の持つ属性が単変量の場合、等値線に沿った区分を列挙し、その中から最も均質性条件に適うものを選び出す地域区分方法も考えられる。また、空間単位の持つ属性が多変量の場合、まず、主成分分析を行い、次に、各空間単位に第一主成分得点を与え、そして、主成分得点の等値線に沿った区分を列挙し、最も均質性条件に適うものを見出す地域区分方法も考えられる。以下、等値線を用いる地域区分方法を等値線法と呼ぶことにしよう。空間単位の属性が単変量である場合、等値線法がFull-Order CLK法よりも均質性条件に適う区分を見出すことがあることは示されている。しかし、一般的にも、等値線法がFull-Order CLK法を上回るかどうかは知られていない。さらに、空間単位の属性が多変量の場合における等値線法のパフォーマンスついては何ら知られていない。
そこで、この研究では、等値線法とFull-Order CLK法等の既存地域区分方法を繰り返し実行した結果から、等値線法とFull-Order CLK法等のいずれが優れるか明らかにすることを試みる。