日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1322
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発表要旨
カナダ・ソルトスプリング島における観光地化の特徴
*小島 大輔
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抄録
ソルトスプリング島は,「芸術家の島」や「オーガニックの島」として紹介され,“Salt Spring Culture(Graci and Dodds 2010)”の体験は,サスティナブル・ツーリズムの成功例とされている.本研究は,カナダ・ソルトスプリング島における観光地化の特徴を明らかにすることを目的とする.
ソルトスプリング島の観光対象の形成は,移住者の変遷と深く関わっている.1961年,カナダ本土やバンクーバー島とのアクセス改善が図られ,移住者が増大することとなった.まず,1960年代から70年代,芸術家や工芸家が,同士が集う心地良い環境に魅了されて移住するようになった.移住した芸術家の製作した工芸品は,やがて1973年に始まった土曜市の中心的な要素となっていった.
1980年頃から,島内の芸術家によってスタジオ・ツアーが開催された.これは,芸術家のアトリエ等を開放し,製作現場の見学,作品の購入ができるようにした取り組みである.近年は,食品や農場もツアーに組み込まれるようになった.
1980年代から90年代にかけては,退職移住者が流入するようになった.1990年代半ばには,バンクーバーやビクトリアなどの都市に近いことから,快適な生活を求めた専門家や起業家などのより裕福な移住者が流入してきた.これによって,地価の高騰が生じ,マンション,高層建築開発や戸建開発などの建設ブームが起きた.また,中心市街のガンジェスには,専門店,グルメ志向の食品店,カフェおよびレストランといった洗練された多様な施設が付加され,RBD(Recreational Business District)が形成されていった.
ソルトスプリング島には,約100軒の宿泊施設がある.その構成は,約3割がB&B,約6割が貸部屋であり,ホテルとその他をあわせても約1割に過ぎない.施設当たりの平均部屋数は3部屋程度であり,小規模な施設が多くを占めている.これらの宿泊施設は,1990年代初頭に急増し,多くの来訪者の受け入れが可能になった.
ソルトスプリング島における観光の独自性は,1960年代以降の島の環境に惹かれた移住者によって形成された観光形態に加えて,環境保護運動の活発さやバンクーバー島への架橋への反対など島嶼地域としての「隔離性」を維持し続けることによって形成されたと考えられる.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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