日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 311
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発表要旨
先駆的自治体における政策相互参照の空間的特徴
四日市市・北上市の企業立地促進法の事例
*佐藤 正志
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抄録
1.はじめに
 現在のローカル・ガバナンスに関する検討では,政策形成における域内の主体に関する検討が中心である.一方で,域外アクターからの影響力は,政府間関係の視点から検討が進められているが,垂直的政府間関係が中心であり,自治体間に該当する水平的政府間関係の解明は議論の中途段階にある.
 水平的政府間関係に関する研究課題として①分野による参照メカニズムの違い,②他地域を参照にする際の空間的特徴に関する検討があげられる.特に後者は,他の自治体との関係や影響力を考察する際の地域的な条件を明らかにする点で,空間的な検討の余地がある. 
 本報告では,地方自治体での政策形成時における自治体間での相互参照行動の空間的な特徴を明らかにすることを目的とする.事例として,従来考察されていない産業分野である企業立地促進法(2007年5月公布)を取り上げる.企業立地促進法は,従来の地域経済政策と異なり,自治体主導で基本計画を策定すると共に,出荷額,企業立地件数,雇用増加数,対象業種等を設定する点で,自治体が独自の政策内容を決定することが可能となる.
 産業政策に関する自治体の政策形成および参照メカニズムに関して仮説を示すと,制度化後自治体間で競い合いながら急速に導入が進むと考えられる.これは,先行導入が企業誘致等を他の自治体より優位に進められ税収や人口増加が見込める点,補助金や助成金が得られる等の利点を享受できる点が指摘できる.一方,後発の場合,形成の遅れから先行事例の後追いになる欠点がある一方,先行する事例を参考にして内容の改訂を進めていく長所も指摘できる. 

2.企業立地促進法の全国的な策定動向
 まず,2007年以降の動向を踏まえて全国的な導入動向と参照行動に関して検討した.企業立地促進法における同意地域は,2011年3月段階で全国に178存在している.
 累計導入数と導入地域の動向を確認すると,制度形成後半年~1年ほど後の時期に導入されていく点が示された.かつ,各地域の基本計画内容や対象分野,数値目標,産業活性化協議会への参加主体を元に基本計画の内容お類似性を示すと,都道府県内を中心に内容が類似している.この点から,基本計画策定における自治体の参照行動は,先行事例が見られてから行い各自治体で検討を始め,参照する例も近隣の自治体を対象にしていると考えられる.
 こうした全国的な特徴が見られた理由として,第1に,先駆的な自治体の計画を見てから検討していると判断できる.後発の事例では,農商工連携の盛り込みや景気後退後の数値目標の適正化といった先行事例を踏まえた上での修正を行った点から,この理由が示される.
 第2に,政策指針や内容形成における都道府県の影響力があげられる.大半の基本計画地域では,都道府県が地域産業活性化協議会に加わっている.都道府県は管轄領域内の市町村へ計画立案の指導・支援を行うため,計画が類似してくると考えられる.特に,県内の全市町村を複数地域分割する場合,この傾向が見られる.

 3.先駆的な自治体における政策参照行動の空間的特徴
 2.の全国的な動向を踏まえ,先駆的に導入した地域に関する参照状況と空間的な特徴を,四日市市・北上市を対象にして検討した.両市ともに第1号同意(2007年7月)を得ており,先駆的な事例となるだけでなく,他の自治体からの参照の対象になりうると判断できる.
 両市で先駆的に基本計画が策定できたのは,経済産業省との人的交流を通じて企業立地促進法の情報を入手できた点が大きい.法案に関する情報を逐次入手したことで,制度化直後の基本計画策定が可能になった.両市とも基本計画形成時には他の自治体を参照にしておらず,独自に計画策定を進めている.これは産業活性化協議会の設置から第1号同意を得るための基本計画作成時間が非常に短かった点,以前から独自の産業政策形成を行った点が大きく働いている.特に二点目は,両市ともテクノポリスや地域産業集積活性化法等を通じた産業政策形成のノウハウを持っていた点が,独自の政策形成を可能にした.
 一方,他地域から視察や問い合わせ等で直接両市を参照した地域は見られない.この点から後発の自治体では,公表された資料や都道府県からもたらされた情報等を中心にして政策内容を参照していると判断できる.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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