日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 204
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発表要旨
ドイツにおけるESDを意識した地理教員養成の在り方
教員養成スタンダードと学会版ガイドラインの分析
*山本 隆太
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抄録

ドイツの地理教員養成の在り方は、2008年の各州文部大臣会議による教員養成スタンダードと2009年のドイツ地理学会による地理教員養成ガイドラインによって示されている。 教員養成スタンダードは、教員として必要な、教育に関する知識・能力についての具体的な内容や、教科指導と関連する専門科学および教科教育のカリキュラムの内容について、各州の教員養成制度に対して示された全国的な要求水準である。そこでは大学における地理学の学習を通じて、ジオスフィア(Geosphäre)を複雑かつ動態的なシステムとして理解することと、その理解のために人間-環境システム(Mensch-Umwelt System)のアプローチが採られることが明示されている。人間―環境システムの分析に基づいて空間の持続可能性を評価し、代替案を検討できるような地理学的コンピテンシーを獲得することがスタンダードでは求められている。教員養成課程者に対する地理学の学習内容において、持続可能性に関する学習が中心に位置づけられている。また、こうした地理学の専門的な知識・技能を地理教育の研究成果に基づいた基準に従い、学校での地理授業へと展開できるコンピテンシーが求められている。その際、ESDの観点が地理授業の重要な中核のひとつとして位置づけられている。 ドイツ地理学会版地理教員養成ガイドラインは、地理教員養成に携わる地球科学系・地理学系機関に対して示されたドイツ地理学会の指針である。地理学に関しては、人間-環境システムに行動志向的な分析という記述が付け加えられており、社会参画の面が強調されている。また、統一的な地理学という見方を重視しており、自然地理学と人文地理学の両分野の学習を通じて、地理学としての領域横断的な知識・技能の獲得が期待されている。地理教員はまた地理学の専門知識に加えて、学習心理学などの教育科学の知見を獲得することが強く求められている。また、人間-環境システムは科目横断的なESDの実践に応用されることも示唆されている。 ドイツ地理学会は学校教育を重要視すると共に地理教育に積極的に関与している。そのため、ドイツの教員養成スタンダードおよびガイドラインにおける地理教員養成の在り方には、ドイツ地理学会が考える地理学観が強く反映されており、そこでは人間―環境システムと持続可能性の概念が中心的な位置を占めている。

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