抄録
多くの中山間自治体では,地域の活性化(経済的効果,コミュニティーの維持,地元への誇りの回復など)のために観光が注目されている。そして,地域の持続性ある観光としてさまざまな形態のエコツーリズムが提唱・実行されてきた。その手法は,ブランド化された観光対象に恵まれない地域において,これまで見落とされてきた対象にスポットを当てる形で行なわれてきたように感じられる。いかし,その結果,人文的な観光対象と観光施設には乏しいが自然は豊かな地域での事例が増えるにしたがい,エコツーリズムは自然を対象にするという誤解がみられるようになってきた。そこで,エコツーリズムの本来の概念であるエコロジカルの意味を再検討する意味で,自然,歴史,文化,民俗,景観などを総合的に捉える地誌の視角から,ジオグラフィカル・ツーリズムの略称としてのジオツーリズムの可能性について考察した。
「非日常性」を観光の価値とすれば,観光者は日常では体験できない特別な観光地に向かうことになり,普遍的な地域は価値のないものとして見過ごされる。一方,ジオツーリズムでは,特別な非日常の対象に観光価値を求めるのではなく,これまで見過ごされてきたありふれた大地の景観をベースとした歴史・文化的観光対象と,観光者や他地域との関係に観光価値を求める。本発表では奈良県川上村を事例にして,観光地の空間と観光者とをつなぐ関係を体感できる小さなサテライト的な観光の場を示し,それを展開する可能性について検討したい。