抄録
本研究では,噴火活動及び環境条件が焼山の植生にもたらしている影響について明らかにした.本研究で調査対象としたのは,新潟県南西部に位置する新潟焼山(標高2,400m)である.活火山のランク分け(気象庁,2003)で焼山はランクBに属しており,約3,000年前に活動を開始して以来,活発な噴火活動を繰り返してきた.山頂付近から標高2,000mまでは裸地や高山植物の分布が広がり,標高2,000m以下はミヤマハンノキ-ダケカンバ群落が,標高1,400m以下になるとブナ-ミズナラ群落が主に分布する.
本研究で明らかにしたことは,以下の四点に集約される.1) 焼山と,隣接する妙高山・火打山の森林限界高度を比較すると,焼山は標高1,400m付近,妙高山・火打山は約2,100m付近であることから,焼山では噴火の影響で森林限界が押し下げられていると思われる.2) 噴火噴出物と高木分布との関係について検討した結果,焼山の標高1,000m~1,200m付近の植生において,溶岩流によって形成された地形的高まりの上では1773年に噴出した火砕流の影響を直接受けていないため,火砕流堆積物によって覆われている凹地と比べて植生遷移が進んでいる.3) 火砕流及び溶岩流堆積後の土壌の生成過程と植物の定着について検討した結果,火砕流・泥流及び土石流などの堆積面上では,大規模な火砕流堆積が起きてから約200年で低木林が成立すること,溶岩上では約1,000年が経つと十分な土壌が発達し,ダケカンバを中心とした陽樹林が成立している.4) 焼山の標高1,400m以上に分布する落葉広葉樹林について,溶岩地形上では高木形態をとり,火砕流堆積面では根曲がりによって低木形態をとる様子が観察される.このような高木のパッチ状分布がみられる要因について,①地質②微地形③積雪条件についてそれぞれ検討した.地質については,溶岩上よりも火砕流あるいは泥流堆積物上の方が不安定で土砂移動が起きやすく,実生の定着が遅れていると考えられる.微地形については,火砕流あるいは泥流堆積面上よりも溶岩上の方が凹凸があるため,有機物の堆積を促し(露崎,2001),土壌生成が進むことが考えられる.また積雪条件については,機械的雪害(大丸,2002)や凹地での積雪期間の長さによる生理的雪害(杉田,2002)が植物の生長への阻害要因として影響している.