日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0301
会議情報

発表要旨
東日本大震災・原子力災害を契機とする震災復興の地理学
*山川 充夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の太平洋沖地震は大きな震度と大きな津波は、東京電力福島第一原子力発電所(以下、東電福一)を襲い、炉心溶融と水素爆発が引き起こされ、大量の放射能汚染を伴うレベル7の原子力災害(同、原災)をもたらした。警戒区域等の設定により、福島県民だけでも16万人が福島県内外に避難し、現在でも仮設住宅・借上住宅等において内国難民の生活を強いられている。原災地域の復旧・復興問題の特殊性は時間の経過とともに問題が一層、複雑化していることにある。 福島大学が2011年10月に全世帯約28,000に対して実施した調査(回収率48%)によれば、避難先は北海道から沖縄まで全国的に分散し、避難先変更回数も5回以上が36%をしめ、多世代家族が避難所や仮設住宅でバラバラの生活を余儀なくされている。故郷に帰還するかどうかの質問で「戻る気がない」と回答したのは4分の1の世帯であり、特に子育て世代に限定すると約半数に上る。「何年待てるのか」と問えば、1~2年が最も多かったものの、避難・仮設生活はすでに事故後3年目に入っている。 大きな問題は原災に伴う被害は時間の経過とともに重層化していることにある。第1次被害の問題は被災地から避難所への移動過程と避難所生活において発生した。津波被災とは異なり、破たんした原子炉にかかわり高線量被曝をした作業員を除けば、原災による直接的な死者はなかった。原災による強制難民のほとんどは着の身着のままで避難所に入り、食糧・生活物資は援助・支援物資などに、また生活資金は年金支給・貯金取崩、義捐金・補償金・賠償金などに依存した。避難所暮らしの歪は生き甲斐の喪失を生み、特に高齢者で健康被害が目立つようになった。また放射能汚染は農産物をはじめ多くの経済的実害と風評害をもたらしている。 第2次被害は難民化した被災者が避難所から仮設住宅・借上住宅に移行する段階で現れてくる。原災に伴う避難は半数以上の世帯が集団型の仮設住宅ではなく、「みなし仮設」としての民間借上住宅で分散的に暮らしている。仮設住宅等での生活は家賃負担はないものの、生活物資や光熱水費などは自己負担である。原災は天災ではなく、国策としての原発推進がもたらした人災であり、原災難民者に一切の自己負担を求めるべきではない。高齢者を先頭に日常的な生甲斐をもつのか、分断されたコミュニティをどのように修復するのか、低線量被曝による健康被害をいかに防ぐのか、心のかべをもつ福島県民のケアをどのように行うのか、多くの問題が第1次被害が収束する前に被災者や被災地域に覆いかぶさっている。 双葉8町村の震災復興計画は出そろい、原災避難者は仮設住宅から復興住宅に移行する第3段階を迎えた。しかし一方では広野町や川内村のように直接帰還できる町村もあるが、他の町村ではそうはいかない。例えば楢葉町では3年、富岡町では5年、大熊町では10年、双葉町では10年以上という長い時間をまたなければならない。しかも帰還時期は自治体のなかでも、帰還困難区域(5年以上)、居住制限区域(3~5年)、避難解除準備区域(3年程度)といった放射能分布にほぼ対応した地域差がある。直接帰還できない町村は、暫定措置として他町村に「町外コミュニティ」を形成することになっている。しかしそれがどのような構造と形態をとるのか、明確ではない。原災難民は強制された避難により家族や共同性を徹底的に壊され、仮設生活段階でも公募・抽選方式のために共同性の再構築が簡単ではなく、第2次健康被害はなくなりそうにない。復興住宅への移行という第3段階に、こうした問題を再燃させてはならない。 2011年7月に設置された福島大学うつくしまふくしま未来支援センターは、原災ともなう震災復興は4つのステップで進めるべきであると提起してきた。第1ステップは放射能測定であり、ここから始まるといっても過言ではない。第2ステップは生活インフラの整備、第3ステップはきずなの回復、第4ステップは人材育成と計画づくりである。この4つのステップは第1~3次被害への対応と密接にかかわっている。 本研究プロジェクトの目的は、まず地震・津波・原子力災害・風評被害の4つの被害実態を地理学的に明確することである。上記4つのステップに沿いながら、「支援知」としてまとめ、これを震災復興の地理学研究として活かしていきたい。震災復興の地理学的研究は、したがって多様な「災害」対応し、地域を取り戻し、それらを踏まえて事前復興へと繋げる成果が必要である。そして災害難民予防のための提言への展望や、持続可能な地球をどのように学術として考えていくのか、さらにどのように行動していくのかというFuture Earthの取り組みに繋げていくことが求められている。

著者関連情報
© 2013 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top