日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0406
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発表要旨
東日本大震災における津波浸水深と被害の関係
*小荒井 衛岡谷 隆基中埜 貴元
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抄録
国土地理院では,東北地方太平洋沖地震(M9.0)における津波被害の記録を残すため,車載型画像計測システム(MMS)による画像取得を,2011年4月に仙台平野から石巻平野にかけて,2011年5月に三陸海岸において実施した。MMSで計測された映像から津波の痕跡を読み取り,津波浸水深と空中写真判読による津波被害度との関連性を検討した。 独自に空中写真判読を行い,津波浸水域の被害程度を次の3段階に区分した。ランク1:建物の大半が基礎ごと流失(流出域)。ランク2:建物が残存するが甚大な被害(破壊域)。ランク3:建物の破壊は無いが浸水(浸水域)。MMSにより計測された浸水深は現地の建物被害状況と良く対応しており,浸水深4m以上ならほぼランク1,1.5m以上ならランク2,1.5m以下ならランク3という状況であった。仙台湾沿岸の津波浸水域の地理的特徴については,小荒井ほか(2011)でまとめられている。ランク1は海岸線から約1kmの範囲にあたり,地形は砂州・砂堆に該当する。微高地のため周囲より標高は高いが,海岸線から近い距離は壊滅的な被害を受けている。ランク2の範囲は海岸線から2~3kmの範囲で,ほぼ標高1m以下の範囲に対応する。ランク3の範囲は海岸線から3~5kmの範囲で,ほぼ標高2m以下の範囲に対応する。谷底平野・氾濫平野では浸水域は海岸線から4kmまで,海岸平野・三角州では浸水域は海岸線から5kmまで達している。ランク1の海岸線から約1kmの土地利用は,森林,建物用地,畑が該当する。阿武隈川河口より南側では,土地利用は森林よりも畑が広く,ランク1の被害域が内陸2km近くまで広がっていたが,畑は森林よりも津波に対する抵抗力が小さいため,被害が内陸部まで高かった可能性が指摘できる。津波浸水高と地形の断面を見ると,津波が標高1~3m程度ある砂州・砂堆等の微高地を通過した後,標高0m程度の低地部になると,10m程度あった浸水高が急激に4m程度に減少している。そこがランク1とランク2の境界になっている。津波が砂州・砂堆等の微高地を通過する際に,エネルギーを失って急激に浸水高が低下している可能性がある。阿武隈川河口の南では砂州の幅が狭く,被害を拡大させた可能性がある。このように,海岸部の微高地の規模や,海岸背後の土地利用による粗度の違いが,内陸側の津波被害度の大小に影響している可能性がある。一方,リアス式海岸である気仙沼市と大船渡市の被害程度の分布を見てみると,湾入口付近と湾奥部で壊滅的なランク1が広がる。浸水深が10mを越える地点もあり,津波が直撃したものと考えらえる。湾奥部では上流に行くほど浸水深も小さくなり,被害程度も小さくなる。丘の背後では遮蔽部となっており,やや被害の程度が軽く(ランク2),浸水深も4m以下である。大きな河川沿いでは,右岸側と左岸側とで標高の差がないのに被害程度に差が認められる。例えば気仙沼の大川の事例では,直撃した津波は左岸側を主に遡上して,右岸側は河川の堤防を越えて河川と直交する方向に遡上した可能性が考えられる。リアス式海岸の湾奥部に位置する都市では,個々の市街地が湾の地形形状に対してどのような位置にあるのかによって,被害の様相が大きく異なる。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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