日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P018
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発表要旨
ブロードバンド環境の整備による離島医療への影響
─東京都小笠原村を事例に─
*植村 円香荒井 良雄
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抄録
Ⅰ研究の目的
近年,隔絶性の高い離島では,インターネットなどの通信技術を利用して,島内患者のレントゲン写真や病理検体画像を本土の専門医に送信し,適切な指導を受けることで医師不足を補っている.しかし,診療の円滑化や重篤患者を緊急搬送する際の処置をさらに迅速化するためには,ブロードバンド環境の整備による安定した高速通信の実現が不可欠である.そこで,本発表では,2011年3月に光海底ケーブルを敷設した東京都小笠原村を事例に,ブロードバンド環境整備が離島医療に及ぼした影響について明らかにすることを目的とする.

Ⅱ東京都小笠原村の概要
東京都小笠原村は,東京からおよそ1,000km南に位置し,交通手段もオンシーズン以外は7日に1便,片道25時間半を要する定期船「おがさわら丸」のみの隔絶した離島である.小笠原村では,本土から小笠原間の海底光ケーブル敷設を国に働きかけ,2009年度補正予算として海底光ケーブル敷設予算が認められた.100億円の整備費用をかけ,2011年7月にインターネット接続用の通信回線を通信衛星経由による接続から海底光ケーブルを利用した接続へ切り替える工事を実施した.
小笠原村では,父島と母島にそれぞれ診療所が設けられており,常駐医師は父島に3名,母島に1名である.それぞれの医師の専門領域が限られることから,小笠原村診療所では,本土の病院(東京都立広尾病院など)と提携して,重篤患者の緊急搬送や,画像診断などを行っている.それでは,2011年3月より本格的に利用された海底光ケーブルは,離島医療にどのような影響を与えたのだろうか.  

Ⅲ分析結果
2013年3月に実施した東京都小笠原村医療課への聞き取り調査では,ナローバンド利用時には小笠原村診療所から本土の提携病院への静止画像の送信から提携病院での診断までに約2時間を要していたが,海底光ケーブルへの移行により約1時間での診断が可能になった.こうした診断時間の短縮によって,光海底ケーブル敷設年(2011年)には56件であった本土での画像診断が,2012年には95件と大幅に増加した.また,2012年の本土での画像診断のうち33.3%が緊急搬送の際に行われていた(小笠原村資料より).画像診断が増加した理由は,ブロードバンド整備のほか,2011年6月に小笠原村が世界自然遺産に登録されたことで来島した高齢観光客の病気や事故が多発したことも挙げられる(小笠原村医療課での聞き取りによる).   
以上から,ブロードバンド環境整備は,本土での画像診断を利用して患者を緊急搬送するかどうかを迅速に判断したり,レントゲンやCTによる画像診断を本土の専門医に依頼したりするなど,離島医療のあり方に大きな影響を与えていると考えられる.  

Ⅳその他  
本研究には,科学研究費補助金(「離島地域におけるブロードバンド整備の地域的影響に関する総合的研究」,課題番号:24320166,代表者:荒井良雄)を使用した.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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